15年以上にわたり、世界中の人々にコーチングをしてきたコーチは、成功する人には年齢や分野を問わず共通する習慣があることに気づく。その習慣を最重要の100個に厳選し、1冊にまとめ、ロングセラーになっているのが、『成功者がしている100の習慣』だ。著者のナイジェル・カンバーランドはイギリス人。共同経営者として起業した会社を成功させたのち、コーチになった。自らも成功した著者が見た、多くの成功者の習慣とは?

成功者がしている100の習慣Photo: Adobe Stoc

成功とは、大小様々な目標を多く達成した人生

 15年にわたって世界中の人々にリーダーシップ・コーチを務めてきた経験から、成功の可能性を最大限に引き出す「マインド」と「行動」について「100の習慣」としてまとめたのが、本書だ。

 書籍の中で紹介されている「成功者のマインドセット」を普段から意識し、行動に結びつけている人はわずかしかいないと著者は「はじめに」で記している。

 そして、そのわずかな人こそが、成功者なのだと。

 著者自身、共同経営者として起業した会社を成功させ、数百万ドル規模で売却した経験を持っている。その後、コーチに転身した。

 成功の要諦を記した本はたくさんあるが、本書には大きな特色がある。

 それは、成功するための習慣を紹介するだけではなく、その「習慣の具体的な実践方法」が紹介されていることだ。しかも、極めて具体的に。これが、今なおロングセラーとして支持されている理由かもしれない。

 そして、その習慣は仕事、人間関係、育児、マネー、健康、老後の生活など、多岐にわたっている。

 興味深いのは、本書が「成功の定義」から始めていることだ。

 実のところ成功と聞いたとき、人々がイメージするのは、様々である。だからこそ、自分にとって成功が何を意味するのかを考えてみようというのだ。すると、成功は想像以上に幅広い概念であることがわかる。

以下は、私がコーチングをしているクライアントから聞いた目標の例です。

・会社で昇進する
・仕事で能力を発揮する
・痩せる
・毎晩ジョギングする
・本を書く
・健康な老後を過ごす
・子育てをまっとうし、孫の顔を見る
・心穏やかに生きる
・住宅ローンを完済する
・資格を取る
・後悔せずにやりたいことをする
・家族や仲間との時間を大切にする
・外国語を学ぶ
・病気を治す
・貯金をする
・仕事を愛し、ストレスなく働く
・いま手にしているものに満足して生きる(P.6-7)

「成功とは、自分にとって大切な大小様々な目標を多く達成した人生だ」と著者は記す。そのためにも、ぼんやりとした成功のイメージを持つのではなく、自分の目標や夢が何なのかを洗い出して一覧にすることを勧めている。

 定義がはっきり定まっていないものには、実は近づきようがない。雲をつかむようなものだ。そして目標をはっきりさせると、成功は案外、身近にあるということにも気付かされる。

実践しやすいように工夫されている

「習慣の具体的な実践方法」が紹介されていると書いたが、実はそれだけではない。

 例えば、【成功者の習慣1「夢を持っている」】では、まずタイトルで具体的な言葉に落とし込まれる。

 このタイトルは、本書の100の習慣すべてが「成功する人は~、成功しない人は~」という文章で構成される。そこに、経営者や科学者、作家、芸術家などの言葉がセットで紹介されていく。

成功する人は夢を追い求め、成功しない人は現実に流されている
「夢を持てば人生は豊かになる。好きなことに熱中し、夢を追い求めれば、それだけで人生は楽しくなる」
――リチャード・ブランソン(ヴァージン・グループ創業者)(P.16)

 成功者の習慣として単に「夢を持っている」と記すだけでなく、タイトルで踏み込んでよりイメージしやすくし、そこに印象的な人物の言葉でさらに印象に強く残るように設計されているのだ。

 しかも、これだけではない。ここから1ページほどの解説文があり、解説文の末尾には「成功のための格言」が置かれている。【成功者の習慣1「夢を持っている」】の場合は、これだ。

成功のための格言 成功の陰には、必ず夢の実現がある(P.17)

 そして「実践しよう!」というページに展開されていく。

【成功者の習慣1「夢を持っている」】では「自分の夢を把握する」「楽観的に夢の実現を信じる」「夢を実現するための解決策をつくる」の3つが見開き2ページで解説されていくが、これが実践できるよう親切に書かれているのだ。

自分の夢を把握する
あなたの夢は何でしょう? 実現し、達成したい目標は? 言葉や写真、イラストを組み合わせ、「やりたいことリスト」をつくりましょう。アイデアを結びつけたり、忘れかけていた目標や願望を思い出したりするのにも役立ちます。次の質問に答えてみましょう。

・幼い頃に好きだったことや、将来なりたかった職業は?
・お金のことを第一に考えなくてもいいとしたら、どんな生活や仕事がしたい?
・現在、時間があったらもっとしたいと思っている楽しいことは?
・身近な人の暮らしぶりを見て、羨ましいと感じるのはどんなところ?(P.18)

 ここまで丁寧に説明されていたら、ちょっと考えてみようかな、という気になるのではないか。それこそが習慣の第一歩になるのだ。その実践が、踏み出しやすい作りになっているのである。

ガーデニングをやってみるだけで

 この文章を書いている私には、3000人以上の取材経験がある。

 中には多くの成功者がおり、私自身も成功をテーマにした著書を書いているが、おっ、これはなかなか言われないぞ、と思える習慣が100に含まれていた。私も一度だけ、アーティストの取材で耳にしたものだ。

 それが、【成功者の習慣79「自然と接する機会が多い」】である。タイトルには、「成功する人は自然との触れ合いでリフレッシュし、成功しない人は自然の癒しを得るチャンスを逃している」とある。

『ジャーナル・オブ・エピデミック・アンド・コミュニティ・ヘルス』に掲載された二〇〇九年の研究によれば、緑の豊かな環境で生活していると、ストレスや不安を感じにくくなります。日本には「森林浴」という言葉があります。森の中を歩くだけで、血圧やストレスのレベルが下がることがわかっています。屋外で過ごすことには、多くのメリットがあるのです。(P.330-331)

 私がアーティストからの取材で聞いたのは、人間はもともとジャングルの中に暮らしていたということ。

 自然の中で過ごすことの心地よさは、DNAに組み込まれている。だから、五感が目覚める。感性が鋭くなっていく。ときどき、自然を感じられる場所に行った方がいいというものだった。

 人工物やテクノロジーから遠ざかることで、幸福感が高まり、気持ちが穏やかになり、心が安定すると本書の著者も記している。

 だからよく、会議室やレストランではなく、公園や川沿いを歩きながらクライアントにコーチングをするのだという。オープンで内省的な会話ができ、気づきも多くなるそうだ。

 しかし、近くに自然を感じられる場所があまりないという人もいるかもしれない。「実践しよう!」では、「自然が豊かな場所で休暇を過ごす」「星を眺める」のほかに、これも踏まえた提案が行われている。

ガーデニングを始める
自然と触れ合うために遠くまで出かける必要はありません。公園に行ったり、木を見下ろす自宅のベランダで仕事をするという方法もあるのです。なかでも手軽に自然に接する特に素晴らしい方法は、ガーデニングです。(中略)
手を泥だらけにして地球を感じれば、ストレスを解消し、日常を忘れることができるのです。(P.332-333)

 こんな「成功者の習慣」のススメが、わかりやすいタイトルと印象的なフレーズ、成功のための格言とともに100も紹介されているのが、本書だ。すぐにやってみたいと思えるものもあれば、そうでないものもあるはず。

「どんな習慣に興味を持つかは、あなたの現在の状況と強く結びついている」と著者は記している。やってみたいと思えるものを探してみるだけでも、今の自分を知ることにつながりそうだ。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『メモ活』(三笠書房)、『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。