
ドナルド・トランプ米大統領が今春、世界中の国々に対して関税を課すと表明した時、多くのエコノミストは物価上昇と支出の削減が経済に大打撃を与えると懸念した。
消費者心理は急激に悪化した。S&P500種指数は2月から4月にかけて19%下落した。世界は固唾(かたず)をのんで底割れに備えた。
しかし、そうはならなかった。企業や消費者は今では自信を取り戻しつつあり、自制していた人々が再び散財し始めていることを示す証拠が増えている。
株式市場は史上最高値に達している。ミシガン大学の消費者景況感指数は4月にほぼ3年ぶりの低水準となったが、再び上昇し始めた。小売売上高はエコノミストの予想を上回る伸びを示しており、非常に高いインフレ率は少なくともまだ現実になっていない。
英バークレイズの米国担当シニアエコノミスト、ジョナサン・ミラー氏は「消費者には何度も驚かされてきた」と語った。ミラー氏は4月時点で、米経済が年内にリセッション(景気後退)に陥ると予想していた。今は、米経済がゆっくりとしたペースではあるが成長し続けるとみている。
オレゴン州ポートランドのタイラー・アーンさん(46)はトランプ大統領が昨年11月に再選されるや否や、関税が導入されるか、場合によっては経済全体が崩壊する可能性があると考えて安全第一で行こうと決めた。企業の製品マネジャーを務めるアーンさんは買いだめに走り、サバイバル用品(懐中電灯や窓を割る道具、浄水用錠剤)とモップバケツ、そしてフランス産ロゼワインを丸ごと1ケース購入した。
その後は今年の春先まで、じっくり腰を据え、出費をできるだけ抑えながら、変化するトランプ氏の関税の脅しを注視した。
しかし最近になって節約の努力を諦めた。「私は決めた。『これが現実だ。私のお金で買える物を買うだけ』」とアーンさんは語る。「どうしたらいいというのか。私は生きなくちゃいけない」