勉強、仕事、筋トレ…やる気はあるのに先延ばししてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』だ。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。本稿では、本書より一部を抜粋し、「モチベーションを高める目標の持ち方」を紹介する。

【今年こそ痩せる】ダイエットで無意識に足を引っ張る「身近な存在」とは?Photo: Adobe Stock

良くも悪くも、目標は伝染する

 ある目標の達成を目指す他者の姿を目にすることで、人は気づかないうちに、自らも同じ目標を求めようとすることがあります。

 これは、あなたにとって望ましい目標(たとえば「痩せる」)に限りません。

 望ましくない目標である誘惑(たとえば「好きなだけ美味しいものを食べる」)でさえも、周りの第三者から伝染することがあります。

 そのことを示した、ある調査を紹介します。

 イギリスに在住する約1万2000人を対象に、32年にわたって追跡調査をしました。

 この調査では、ある人の体重増加が、その人の社会的ネットワーク(友人、配偶者、兄弟姉妹、隣人)の体重増加と関連しているかどうかを調べました。

 その結果、過体重や肥満が、ネットワークを通じて広がっていくことが確認されました。

 つまり、肥満度の高い人と付き合いがあった人ほど、後に自分が肥満になる可能性が高い、ということが示されたのです。

 ある期間に肥満になった友人がいた場合、その人が後に肥満になる確率は57%も高まるというから、驚きの結果です。

 これは、身近な人が美味しいものをたくさん食べている姿を見ることによって、自分自身にも「美味しいものを食べたい」といった望ましくない目標(誘惑)が伝染し、体重増加につながったと考えられます。

目標を達成するために距離を置くべき人

 この調査結果から得られるヒントは、困難な目標を目指していて、少しでも自制心を無駄にしたくない場合には、自分の目標とは正反対の行動をとっている他者と距離を置く必要があるということです。

 みなさんの周りには、みなさんが目標としている行動とは正反対の行動をしている人がいないでしょうか?

 自分は「痩せたい」と思っているのに、食事の後に必ずスイーツを注文する(これは、私です……)友人はいませんか?

「偏見を示したくない」と思っているのに、常に差別的な表現をする上司はいませんか?

「禁煙をしたい」と思っているのに、1日に20本もタバコを吸うヘビースモーカーが同僚の中にはいませんか?

 4日目の講義では、環境的な要因によって、目標が知らず知らずのうちに活性化し、それに応じた行動を無意識のうちに行っている、ということを学びました。

 それは、望ましくない目標(誘惑)も同じです。

 では、自分の周りに誘惑となっている対象(人も含めて)がないか、それによって自分でも無意識のうちに誘惑に導かれていることはないかを確認してみましょう。

※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。