「圧倒的に悩む時間が減った」「仕事のキャパが10倍になった」
そんな感想が届いているのが、木下勝寿氏の著書『売上最小化、利益最大化の法則』『時間最短化、成果最大化の法則』『チームX』『「悩まない人」の考え方』シリーズ4部作。なかでも、「これは傑作。飛び抜けて面白い必読の一冊。心から「買い」!!」と絶賛されているのが、『「悩まない人」の考え方』だ。「ここ20年以上、まともに悩んだことがない」という著者が、「出来事」「仕事」「他者」に一生悩まない最強スキル30を初めて公開した本書はどんな本なのか。本書を推薦する一橋大学特任教授でベストセラー著者・書評家でもある楠木建氏が鋭く読み解く。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

大成功している人の特徴
凡人から見ると、成功者は一発で大成功を引き当てているように見える。
だからホームランを打とうと追加の力が入ってしまうバットを大振りした挙句、空振りする。
「いつか当たってホームランになるはず」とバットを振り回すが、そのうちバットを振ること自体に疲れてしまう。そして悩みに陥っていく――『「悩まない人」の考え方』の著者は言う。
大きな成功を収めている人ほど、最初から「一発大当たり」に期待していない。小さな成功をコツコツ積み重ね大成功に近づく。
本書が引用している松本人志氏の考え方が面白い。
ダウンタウンがコンビを結成したのは1982年。漫才ブームが終了した直後のタイミングだった。
その頃、ダウンタウンと同世代のある芸人が「もう一回漫才ブームが起きたらいいのにな……」とボヤいていた。
それを横で聞いていた松本氏はこう言った。
「アホちゃうか、おまえ。いま漫才ブームなんかきたら、おれたちは一瞬で潰れるで」
松本氏の考えはこうだ。
もしこれから漫才ブームがきたら、ダウンタウンのような新人も出場機会が多くなる。出番が続くと、新ネタを仕込む時間はなくなる。だから同じネタを何回もやることになり、短期間のうちに劇場のお客さんやテレビの視聴者に飽きられ、たちまち潰れてしまう。ネタや実績の蓄積がある状態でドカンと売れるのと、手持ちのネタがないままブームに踊らされて売れるのとはわけが違う――。
◆あなたは「微分派」? それとも「積分派」?
私見では、人は成功に対する構えで微分派と積分派に分かれる。
この分類は、その人が成功を認識するメカニズムの違いに注目している。
例えば昇進したとか、自分の評価が上がったとか、直前と現在の変化の大きさに幸せを感じるタイプが微分派。
一方の積分派は、その時点での変化率よりも、これまでに経験した大小の成功を過去から累積した面積の大きさに幸せを感じる。
僕は完全に積分派だ。
本を作るときでも、ベストセラーよりできればロングセラーになってほしいと考える。
「一気にベストセラーチャート入り!」とかではなく、じわじわ読者が広がっていくほうがいい。
「少し愛して、長く愛して」が理想だ。
もちろん、そんなにうまくいくことは滅多にないのだが。
本物のブランドとは?
どんな企業にとってもブランドは非常に大切なものだ。
しかし、「ブランディング」という考え方については、僕はどちらかというと懐疑的だ。「よーし、ブランディングをするぞ!」という色気が、かえって商売を歪めたり弱めたりすることがある。
ブランドというのは、振り返ったときにそこにあるものだというのが僕の考えだ。
毎日の商売の積み重ねで段々と信用が形成され、気がついてみるとその総体がブランドになっている。すなわち、動名詞のブランディングよりも過去分詞の「ブランデッド」――これが本物のブランドなのではないか。
ブランディングとなると、プロモーション予算を組んで、インターネットでインフルエンサーを使ってバズらせましょう、という話になりがちだ。
今の時代、いかにもブランディングに効きそうなデジタルマーケティングの手法やツールが用意されている。
フェイスブックやインスタグラムなど即座に使えるプラットフォームもある。その道の専門家を雇い、予算を組んでプロモーションをバンバンやる。手っ取り早くうまいことやろうという方向にどんどん流れ、商売の内実がおろそかになる恐れがある。
ブランドはある一時点での顧客認知の大きさではなく、顧客の中に積もり積もった価値の総体だ。
独自の価値提供に自信がないほど、ブランディングというお化粧で勝負しようとする。お化粧はそのうち剥がれてしまう。ベースがしっかりしていないところにお化粧をしても、たかが知れている。
結果的に発生する「ご褒美」のようなもの
強力な商売が結果として強力なブランドをもたらす。
この因果関係こそが本筋で、ブランドがあるから強いのではない。
トヨタもアップルも、そもそも商品やサービス、オペレーションに独自の価値があったからこそ、今日のブランドになったわけだ。
ブランドというのは、それまでのあらゆる企業努力による日々の商売の蓄積から結果的に発生する「ご褒美」のようなものだと割り切ったほうがよい。
ご褒美を先取りしようとして手練手管を連発しても、お客にはすぐに見破られる。
一時的にバズらせることはできても、長続きしない。
振り返ってみると思いがけずブランデッドになっていた――これが理想の成り行きだと思う。
(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』に関する特別投稿です。)