星野リゾート代表・星野佳路氏が“バイブル”と語る一冊の本がある。30年以上前に出版された『1分間顧客サービス』だ。若手ビジネスパーソンが、突然現れた守護天使との対話を通じて、ファンづくりの極意を学ぶというストーリー仕立てのビジネス書である。本書が30年ぶりに『熱狂的ファンのつくり方』というタイトルで待望のリニューアルとなった。「顧客満足」を超えて「熱狂的なファン」を生み出すための秘訣とは? 今回は、本書から「顧客の声」にまつわる一節を抜粋して紹介する。

「何も言わない顧客」は不満がない?
「顧客の話を聞くとき、三つの落とし穴がある」
「落とし穴が三つ?」
「最初の一つは、先ほど説明した、顧客は本心と違うことを言う場合があるということ。あとの二つは、“問題ありません”という答えと“沈黙”だ」
どちらも気になる。
「“沈黙”のほうから説明しよう。最近、サービスで嫌な体験をしたことは?」
「もちろん、ありますよ。つい先日もレストランで、ひどい接客と冷めてしまった料理を体験しました」
「そのとき、きみはどうしたかな?」
「我慢して食べましたけど。お腹が空いていたので」
「苦情を言ったかな? あるいは、責任者を呼べと言ったかな?」
「いいえ、特に何も。さっさと帰ることだけ考えていたので、テーブルの上にあった感想カードに苦情を書いたりもしませんでした」
「それが普通だよ。不満があったとしても、わざわざカードに記入する人などめったにいない。責任者を呼んで文句を言うことなんか、もっとあり得ない。そんなことをしても何も変わらないことがわかっているから」
「同感です。時間の無駄ですよね。店は苦情を読んだりしないだろうし、改善のために何かするということはもっとないでしょう。それをするほどの店なら、最初から冷めた料理なんか出しませんから」
「その体験から、きみはどんな教訓を得たかな?」
「教訓?」
「学ぶべき教訓は、顧客が何も言わないというのは、それ自体がメッセージであり、決して良いメッセージではない、ということだ」
「おっしゃりたいことが、わかりました」
「満足です」「問題ありません」は顧客離れのサイン
「まだ続きがある。顧客の反応のなかには沈黙よりやっかいなものがあるんだが、何だと思う? 料理やサービスに不満があるのに、『料理はいかがでしたか?』とたずねられて、『おいしかったよ』と答えて店を出たことはないかな?」
「なるほど。私なんか、いつも『おいしかった』と言ってますね」
「そこなんだ。そう答える客は、じつは料理について何も思わなかったか、不満はあるけれど大ごとにしたくないと思っているかのいずれかだ。要するに、店の側が本気で料理の感想を知りたがってなどいないと見抜いているんだ」
それはよくわかる。つい最近の出来事が、まさにそれだった。
「先週、サプライヤーから二週間も遅れて品物が届いたんです。そして昨日、サプライヤーの営業担当者が訪ねて来ましたが、私はあえて苦情を言いませんでした。なので、彼らは何も問題はなかったと思っているかもしれません。苦情であっても言うべきだったんでしょうね。立場が変われば、わが社も、顧客が何も言ってくれなかったら『問題はない』と思ってしまうでしょうからね」
「わかったようだね。顧客が何か苦情を言ってきたら、もちろんきちんと聞かなくてはならない。うれしくなるようなことを言われたときも、耳を傾ける必要がある。だけど、顧客が何も言ってくれないときや、素っ気なく“問題ありません”と言った場合は、もっと真剣に耳を澄まさなければならない。なぜなら、そこに解決すべき問題が潜んでいるからだ。少なくとも、その顧客がまだ〈熱狂的ファン〉ではないことは確かなんだから」
(本稿は、『熱狂的ファンのつくり方』(ケン・ブランチャード/シェルドン・ボウルズ著、星野佳路監訳)の内容を一部抜粋・編集したものです)