承認欲求を手放すにはどうすればいい?

――だんだんと自己肯定感を高める方法がわかってきた気がします。究極的に承認欲求を手放すには、何をすればいいのでしょうか?

川野:「自分が心から楽しいと思えること」をやることです。私の場合は、医師や禅僧としての務め以外に、趣味でバンド活動をやっています。

お金をもらえなくても楽しめるようなこと、それができれば他の承認を求める気持ちを手放せるようになると思います。

もちろん生活のために働くことは必要です。でも、お金にならなくても楽しいことがあると、仕事でも「やるべきことをやったぶんだけもらえればいい」と思えるようになり、気持ちが軽くなるのではないでしょうか。

――そうやって、自分の軸ができていくんですね。

川野:はい。そうすると、他人の期待に無理して応えようとせず、結果にも振り回されにくくなります。

たとえば、たとえ高額な報酬を提案いただいても、「自分が本当に求められているわけではなさそう」と感じた仕事については、私はお断りするようにしています。

――なるほど。頼まれたからと言って、すべてに応える必要もないですもんね。

川野:そうですね。「自分がやることとやらないことの軸を持つこと」が、自己肯定感を高めるのに役に立ちます。

自己肯定感に課題がある人ほど、無理してがんばりすぎる傾向があります。そして、善意が報われないと落ち込んでしまうこともあります。

だからこそ、自分の今の感情を大切にする「マインドフルネスの習慣」が役に立つんです。

「今の自分」をそのまま受け入れる練習

――マインドフルネスの習慣ですか。どんなふうに生活に取り入れていくといいでしょうか。

川野:やはり「瞑想」ですね。忙しくても1日5分、自分と静かに向き合う時間を持つだけでも、心がブレなくなっていきます。

瞑想は「今このままの自分」を受け入れる練習でもあるんです。

――忙しい中でも取り入れられるのがいいですね。

川野:はい。『瞬間ストレスリセット』にも、そうした小さな習慣がたくさん紹介されています。どれかひとつでも取り入れてみることで、心が少しずつ楽になっていきますよ。

(本稿は『瞬間ストレスリセット 科学的に「脳がラクになる」75の方法』に関する書き下ろし特別投稿です)

川野泰周(かわの・たいしゅう)
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。
著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、近著には『禅僧の精神科医が教える 頭と心が整理される1分の使い方』(大和書房)などがある。