指揮官の動揺、部下には見抜かれていた
私はトレーディングのチームリーダーとして冷静に指揮をとっていたつもりでしたが、明らかに不安そうな顔をしていたのでしょう。
「宇根さん、顔色が真っ青ですよ!」というKYからの指摘は的確だったのです。
揺れるフロア、駆け寄るハリちゃん
突然、揺れが激しくなったとき、チーム唯一の女性トレーダー・ハリちゃんは、「怖い!」と声をあげながら、私のほうに駆け寄ってきました。
しかし、チームリーダーとして頼りにされている高揚感に浸る余裕などありません。
余震が続くなか、多くは避難指示にしたがってエレベーターフロアに避難しました。
「身の安全を!」――でも心の中は真逆だった
私はリーダーとして、「身の安全確保を優先して!」と当然の言葉を発しましたが、実際には自分が一番焦っていたのです。
“ボラティリティデスク”の猛者たち
GSで私が属していたチームは「ボラティリティデスク」と呼ばれ、主にオプションや先物を売買していました。
アジアにあるマーケット部門において“稼ぎ頭のデスク”の1つとして、2000年代初めのネットバブル崩壊や2006年のライブドアショック、2008年のリーマンショックなど、数多くの困難な時期もチームとして乗り越えてきました。
混乱の中で飛び交う注文と冷静な声
そんなチームのメンバーは、誰も避難せず、白いヘルメットをかぶりながらパソコンの前から離れようとしません。
「デルタは?」
「500本です」
「先物売れるの?」
「システムつながっています!」
同期で親友の「殿」が放った一言
私の右腕として活躍していたトレーダーのマッチョは、実に冷静でした。
チーム最強のリスクテーカーであり、私とGS新卒入社同期で大学時代からの親友である「殿」も、「ロングポジションを全部はずせ!」と若手に指示していました。
恐怖と隣り合わせのリスクコントロール
株価の下落が見込まれるときは先物を売る、あるいはプットオプション(売る権利)を買うことで利益を得ることができます。
先物やオプションなどの金融商品を活用したリスク管理は、われわれトレーディングチームの真骨頂でした。
揺れる世界の中で、私たちは注文を出し続けた
こうして私たちは、いつシステムが断絶するかわからない恐怖を抱きつつも、できるだけ多くの先物を売り、買えるだけのオプションを買いました。
騒然としたオフィスで、トレーダーたちが注文を出し続けていた姿は、今も脳裏に焼きついています。
※本稿は『最後に勝つ投資術【実践バイブル】 ゴールドマン・サックスの元トップトレーダーが明かす「株式投資のサバイバル戦略』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。