「日本のユニコーン企業に興味ある?」
 PayPal創業の伝説的投資家に聞いた答えとは

 日米の差は、スタートアップの創出力の差ではなく、「スケールアップ」の知恵と仕組みの差にある。にもかかわらず、スタートアップの裾野を広げれば、その中から大化けする企業も現れるのでは、という安易な発想そのものが貧困と言わざるをえない。

 アメリカの伝説のベンチャーキャピタリストの声を聴いてみよう。それはピーター・ティール。ペイパルを創業した後、数々の大化けベンチャーを創出してきた人物で、フェイスブックの初期の投資家の一人でもある。また、2020年に1兆6000億円規模の上場を果たしたパランティア・テクノロジーズは、彼が創業者・会長を務めている。

 そのティールの著作に『ゼロ・トゥ・ワン』という名著がある。スタートアップを大きくスケールアップさせる成功の秘訣を披露したものだ。ちなみに「ワン」とは「1ビリオン(10億)ドル」、すなわち年間収益1500億円超を指す。まさに桁違いである。

 同書は、その条件として、7つのキークエスチョン(※注)に答えられなければならないと説く。誰も気づいていない大化け市場を発見したか、そこで10から20年にわたって独占的な地位を維持できる参入障壁を築けているかなど、いずれの質問もハンパない。これらの質問のすべてをクリアできる企業は、日本のトップ・ユニコーン企業群の中でも皆無である。

 かつてティール氏に、日本のユニコーン10社を説明し、関心を聞いてみたことがある。即座に「ノー」。まったくスケールする気がしないという。「このような泡沫スタートアップをユニコーンと呼んでいる時点で、日本はまったくイケていない。世界一流のVCが日本に興味を示さない理由が分かるか?」と逆に切り返されてしまった。

「スタートアップ」待望病に陥っている限り、日本版マグニフィセント・セブンが出現することはないだろう。

注:ティール氏が提唱する「7つのキークエスチョン」は以下の通り。 

1.エンジニアリング:段階的な改善ではなく、ブレークスルーとなる技術を開発できるだろうか?

2.タイミング:このビジネスを始めるのに、今が適切なタイミングか?

3.独占:大きなシェアがとれるような小さな市場から始めているか?

4.人材:正しいチーム作りができているか?

5.販売:プロダクトを作るだけでなく、それを届ける方法があるか?

6.永続性:この先10年、20年と生き残れるポジショニングができているか?

7.隠れた真実:他社が気づいていない、独自のチャンスを見つけているか?


出典:『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか(NHK出版)』 ピーター・ティール/ブレイク・マスターズ(著)、関 美和 (翻訳)