「ベストを尽くすな」東大・マッキンゼーOB創業のメガベンチャーが社員に配る“逆張り社訓カード”の正体出典:オイシックス・ラ・大地の採用サイト(https://recruit.oisixradaichi.co.jp/culture/)より

京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本記事では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。比較的若い企業の中で、名和教授がシン日本流経営の好例として評価するのが、2000年創業の「オイシックス・ラ・大地」である。同社の社員は「ベストを尽くすな」「お客さまを裏切れ」といった行動規範が書き込まれたカードを常に身につけて業務に励んでいるというが、一体どういうことか――。

マッキンゼー出身者が立ち上げた
メガベンチャー3社が飛躍的に成長

 1999年から2000年にかけては、起業が相次いだ。なかでもネットバブルに乗って、多くのドットコム企業が出現。そして、その多くが2001年のバブル崩壊とともにフェードアウトしていった。

 しかし、その焦土の中から大きく成長していった企業群が一握り存在する。たとえば、ディー・エヌ・エー(1999年創業)、エムスリー(2000年創業)、オイシックス(現オイシックス・ラ・大地、2000年創業)。実はこの3社には共通点がある。

 いずれもマッキンゼー出身者(南場智子氏、谷村格氏、高島宏平氏)が創業したという点だ。さらに言えば3氏とも、当時マッキンゼーがITベンチャー支援を目的に立ち上げていたアクセラレーター@マッキンゼーの主力メンバーでもあった。

※注:高島氏の「高」の表記は、正確には「はしごだか」。

 筆者はアクセラレーターの東京代表を兼任したものの、スケールしそうな日本発ベンチャーは見当たらず、1年半で店じまい。しかし、そこのコンサルタントたちが自身で起業して成功するという結果につながった。

「ベストを尽くすな」東大・マッキンゼーOB創業のメガベンチャーが社員に配る“逆張り社訓カード”の正体PHOTO (C) MOTOKAZU SATO
京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。 2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。

 そのような数少ない成功事例の中から、今回はオイシックス・ラ・大地に焦点を当てる。同社は、一言で言うと、安心安全な農産品や加工食品、ミールキットなどを宅配する会社である。最近では高級スーパーマーケットと提携して、店舗販売も展開している。

 あえて同社を選んだ理由は3つ。

 第一に、日本発の社会イノベーションのモデルケースとなりうること。第二に、「守破離」のリズムで進化し続けており、シン日本流経営への示唆に富んでいること。そして第三に、筆者自身が、創業者の高島宏平氏を学生時代から四半世紀にわたり、付かず離れず見守ってきたこと。