
京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本連載では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。今回は「超・高収益企業」として知られるキーエンスに着目。同社の営業部隊が「平均的に高いソリューション営業力」を持ち、誰がどの企業を担当しても結果が出せる要因を深堀りしていく。
経営学者が提言!
キーエンスの強みを読み解く「3つの視点」
キーエンスは、1974年に滝崎武光氏が兵庫県尼崎市に設立。自動車や精密機器、半導体などの工場において、生産工程を自動化するファクトリーオートメーション(FA)にかかわるセンサー類を開発・製造するメーカーだ。
当初の社名は「リード電機」。1986年に現在の「キーエンス」に変更した。「キー・オブ・サイエンス」、徹底して科学的な経営を目指すことを標榜した社名である。
キーエンスは、時価総額ランキングで、トヨタ自動車、三菱UFJ、ソニー、リクルート、日立製作所、ファーストリテイリングに次いで、国内第7位につける(2024年12月末現在)。PBR(株価純資産倍率)は5倍を超える超優良企業だ。
しかし、創業者の滝崎氏は、株価より利益率にこだわる。資本市場の思惑に左右されることなく、企業の実力が「科学」的に示されるからだ。そして同社の粗利率は80%を、営業利益率は50%を超える(いずれも2023年3月期)。日本企業としても、世界の設備産業を見渡しても、まさに「規格外」である。

京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。 2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。
キーエンスの経営手法は、超合理主義を貫いているため、欧米的であるかのように思われている。それは一面において正しい。しかし同時に、現場主義と人基軸を徹底している点においては、極めて日本的な側面も兼ね備えている。いや、むしろキーエンス流の真髄は後者にある。キーエンス研究の多くが表面的な手法に焦点を当てがちだが、この本質を見誤ってはならない。そのためには、次の3つのキー・クエスチョンへの答えを考えてみる必要がある。
(1)なぜキーエンスは、高利益率を目指し続けるのか(パーパス)。
(2)そのために、どのような原理原則(プリンシプル)を組織に実装しているのか。
(3)それをいかに、日々の活動に実装(プラクティス)しているのか。
この3つの「P」に、キーエンスの強さの秘密が隠されている。同時にそこには、シン日本流経営のヒントも潜んでいそうだ。