
京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本記事では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。名和教授が日本流経営の好例として評価するのが、2024年に創業75周年を迎えた化学メーカーのカネカだ。同社の「意外な商品」がアフリカ人女性に大人気だというが、一体どんなものか――。
規模こそ業界トップではないものの
独自戦略で存在感を放つカネカ
今回は、2024年に創業75周年を迎えた企業を見てみよう。帝国データバンクによれば、1949年生まれの企業は9450社に上る。アサヒグループホールディングス、デンソー、丸紅など、超大手企業もリストに名を連ねる。その中で今回は、カネカを取り上げてみたい。
理由は2つ。1つ目は、日本企業ならではの進化を遂げているからである。2つ目は、筆者自身が過去10年以上にわたって同社を側面支援しながら、進化のプロセスを付かず離れず目撃してきたからだ。
カネカは化学業界の一角に位置する。売上規模では8000億円弱で、日本企業の中では20位程度。しかし、カネカの真骨頂は規模ではなく、その製品群のユニークさと社会的な価値の高さにある。
同社は、1949年に鐘淵紡績から非繊維事業を分離し、「鐘淵化学工業株式会社」として発足。高分子と発酵技術をテコに、塩化ビニール樹脂をはじめ、発酵法ブタノール、モダクリル繊維、発泡樹脂、さらには、マーガリンやショートニングなどの食材を矢継ぎ早に事業化。その後も、超耐熱性ポリイミドフィルムやアモルファスシリコン太陽電池などで情報産業・環境分野へ、また医薬品中間品や医療機器などでライフサイエンス分野へと、多角化を進めていった。
1970年以降は、本格的に海外にも乗り出していった。ベルギーをはじめとして、アメリカ、シンガポールに相次いで現地法人を設立。1990年代後半には、マレーシアや中国にも進出して、アジアでの事業を拡大している。
このように創業以降のカネカは、事業軸と市場軸をそれぞれずらしながら、事業基盤を拡大していった。ただし、単に領域を広げただけではなく、それぞれの新領域において「守」と「破」を繰り返しながら進化していったのである。

京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。 2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。