「日本のユニコーン企業に興味ある?」→ PayPal創業の伝説的投資家が言い放った“ぐうの音も出ない正論”Photo:David Hume Kennerly/gettyimages

京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本連載では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。名和教授はかつて、伝説的投資家として知られるピーター・ティール氏と話す機会を得た。そこで日本のユニコーン企業(設立から10年以内で、評価額が10億ドル以上の未上場企業)への関心度について聞いたところ、“ぐうの音も出ない正論”が返ってきたという。ティール氏が語った内容とは――。

米国のスタートアップが
全て成功しているわけではない

『マグニフィセント・セブン(The Magnificent Seven)』というタイトルをご存じだろうか。

 映画ファンなら、少し前(2016年)のあまりヒットしなかった西部劇を思い浮かべるかもしれない。私の世代だと、スティーブ・マックイーンが出演した往年の名作『荒野の七人』(1960年)を思い出すのではないだろうか。先に挙げた2016年の映画は、この名作のリメイクだ。

 ちなみに、『荒野の七人』が実は黒澤明監督の代表作の一つ『七人の侍』(1954年)のリメイクだったことは、知る人ぞ知るエピソードである。

 さて、現代の「マグニフィセント・セブン」と言えば、アメリカを代表するテック企業7社の代名詞である。GAFAMと総称される5社(グーグル=現アルファベット、アップル、フェイスブック=現メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)に、エヌビディアとテスラを加えた7社のことだ。

「日本のユニコーン企業に興味ある?」→ PayPal創業の伝説的投資家が言い放った“ぐうの音も出ない正論”PHOTO (C) MOTOKAZU SATO
京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。 2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。

 この7社の超成長ぶりは凄まじい。三井住友トラスト・アセットマネジメントによると、マグニフィセント・セブン(M7)の株価は、2013年からの11年間で平均して43.7倍に上昇。一方、M7も含むS&P500は4.19倍で、これら7社を除くと3.40倍に留まる。これは、同じ期間の日経平均株価成長率(3.49倍)にも届かない数字だ。

 極言すれば、日本企業群がアメリカに大きく劣後しているように見えるのは、M7レベルの超成長企業が出てこなかったからにすぎない。そこで日本政府は、スタートアップの育成に大きく踏み出そうとする。2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けたほどの力の入れようだ。

 しかし、残念ながら、これは大いなる勘違いだ。アメリカでも日本でも、もちろん星の数ほどスタートアップは生まれている。ただ、よくて中小企業どまり、多くは海の藻屑のように消え去っていく。この点において、日米の差はない。