だから勉強したかったし、自分は何者かになれることを証明したかった。ただ一方で、「岸谷の息子が海外まで行って、結局何もできなかったらしい」って週刊誌に書かれる未来がリアルに想像できちゃって。だからもう行くなら絶対に結果を出すしかないって、退路を断って留学したって感じです。

「環境が悪い」って開き直ってもいい

 僕が思うに、人間って100パーセント環境が大事なんですよ。僕は小さいころから特別扱いされてきた。それは両親が有名人だったことと、体が弱かったから※。周りからいつも気を遣ってもらえて、ケアしてもらえて。それが当たり前になっていくうちに、「自分は特別なんだ」って思うようになっていきました。

※小児リウマチで幼稚園は半分近く欠席。小学3年生時に新薬で病気は完治。

 でも、実際は特別な才能があるわけでもないし、すごいことを成し遂げたわけでもない。そのギャップを埋めたくて、自分の力で何かを成し遂げて、「特別」って思われたいと思ったんですね。

 だから僕は、人は環境で変わると思うし、自分を変えたかったらまず環境を変えるしかないって思います。

 今うまくいってない人も、環境さえ変わればうまくいくと思う。だから、自分のせいにするんじゃなくて、「環境が悪い」って開き直っていいと思うんですよ。それぐらい環境の力って大きい。

貧しさの打開策としての「学び」が生まれない日本

 今の日本って、格差もそんなにないし、「のし上がってやるぜ」みたいな意識が育ちにくいんですよね。セレブリティが存在しない国だと思うんです。成功しても、それをあまり見せびらかしちゃいけない文化というか。金持ちに対しても独特な風潮がある。

 だから、ロールモデルがいないんです。誰を見て憧れればいいのか、どこを目指せばいいのか分からない。本当は、音楽でもスポーツでも起業でも、成功した人たちがもっと「こうやって上がってきたんだ」って見せるべきなんですよね。だから僕は、そういう次世代のロールモデルになれたらいいなって思ってます。

 日本人ってお金を増やすことに貪欲じゃないというか、「他人が得するのは許せない」とすら思う、いわゆるムラ社会的な空気が蔓延してる。

 日本は、「みんな同じ」をすごく大事にするんですよ。個人の成功よりも、周りとの調和を重んじる。「自分だけが得する」ことに素直になれず、「他人が得すると面白くない」が根底にある。だから「自分だけ金を増やしたい」って発想に罪悪感がある。

 その結果、お金の教育が進まずに、貧しさの打開策としての「学び」が生まれないんじゃないかな。結局、日本の若者が海外に出たがらない理由も、英語を学ばない理由も、「困ってないから」なんですよ。

 僕は退路を断ったから留学できたけど、覚悟を決められずにいたら、ずっとぬるま湯につかったままだったと思います。

 でも、安全で快適で豊かな国に生まれたっていうのは、ものすごくラッキーなことでもあると思うんです。だからこそ、環境をどう変えるか、何を目指すか。ひとりひとりが考えるフェーズに来てるんじゃないかなと思います。

なぜ日本人は留学しないのか?岸谷蘭丸が中受で早稲田→「このままバカに…」と怖くなったワケ岸谷蘭丸(きしたに・らんまる) 実業家・インフルエンサー。2001年7月7日生まれ、東京都出身。幼い頃に小児リウマチを発症しながらも治療を経て回復。中学受験を経て入学した早稲田実業学校中等部卒業後、渡米してニューヨークの高校へ進学。1年で単位を修了してプリンストンの高校に編入。大学受験では米・フォーダム大学に合格するも、浪人をすることを決意。翌年イタリア・ボッコーニ大学に進学。2021年に「柚木蘭丸」としてSNS活動を開始し、2024年に俳優・岸谷五朗、ミュージシャン・岸谷香の長男であることを公表。本名での活動に切り替え、TBS『Nスタ』や『ABEMA Prime』などでコメンテーターを務める。2023年には友人とともに海外大学受験支援サービス「MMBH留学」を設立し、英語指導や出願支援を展開、教育事業にも注力している。 Photo by Shogo Murakami