ハーバード大学教授であり、ハーバード行動洞察グループ(BIG)のディレクターを務める行動科学者トッド・ロジャース。行動科学で人を動かす方法を研究してきた彼が、「読まれる文章」「読まれない文章」の原理を突き詰め、科学的に正しい文章術として体系化したのが『忙しい人に読んでもらえる文章術』(トッド・ロジャース、ジェシカ・ラスキー=フィンク著、千葉敏生訳)だ。Xでは「長文メールを撲滅する本が完成しました」という投稿が、絶妙なデザインと相まって爆発的にバズった1冊だ。本稿では同書の内容に触れながら、ぐちゃぐちゃなメールの弊害について考えたい。(ダイヤモンド社書籍編集局 三浦岳)

【SNS爆発の長文メール撲滅本】「メールがぐちゃぐちゃな人」の残念な特徴とは?Photo: Adobe Stock

「ぐちゃぐちゃなメール」を前にして

 メールがぐちゃぐちゃな人とやり取りをするたびに、「この人は相手のことをまったく考えていないのではないか」と感じてしまう。

 整理されずに長々と書き連ねられた文章を前にすると、内容以前に読む気がそがれ、いったいこの人はどういうつもりかとストレスを感じてしまう。『忙しい人に読んでもらえる文章術』にはこうある。

 何段落もの文章がびっしりと詰まったメールを最後に受け取ったときのことを思い出してほしい。

 読むのにどれくらい時間をかけただろうか?

 ほとんどの人は、仮に読もうとしたとしても数秒程度だと答えると思う。

 忙しい人々は、流し読みをするか、わずらわしいメッセージを読むのを先延ばしするか、さもなくばメッセージを完全に無視してしまうことが多い。――同書より

 この指摘には強くうなずかざるを得ない。

 メールがぐちゃぐちゃな人は、自分の頭の中を整理せずにそのまま相手に投げている。書き手の都合で文章を組み立てており、受け手がどう処理するかを考えていない。

 結果、読み手が「読むべき情報」と「余計な情報」とを仕分ける作業を強いられ、疲労感ばかりが募ってしまう。

集中を取り戻すのには20分以上かかる

 またつらいのは、一度集中を削がれると仕事全体に悪影響が出ることだ。

 いったん気が散ると、もういちど集中を取り戻すのは難しい。

 カリフォルニア大学アーバイン校の情報科学者のグロリア・マークによると、いったん作業が中断されたあと、労働者が再び元の作業へと完全に集中し直すのには平均23分もの時間がかかるという。いうまでもなく、その作業がなんであれ、作業の成果に影響が出るだろう。

 カーネギーメロン大学で行なわれた別の研究によると、読解テストを受けている最中に電話による中断が入ると、テストの成績が20パーセント低下したそうだ。――『忙しい人に読んでもらえる文章術』より

 つまり、ぐちゃぐちゃなメールは相手の集中を奪い、仕事の効率そのものを下げてしまうのだ。

 メールがうまい人と下手な人の差は、文章のスキルではなく「想像力」の差だ

 相手がどう受け取るか、どんな労力が発生するかを想像できる人は自然とシンプルに書く。逆にそれをしない人は、自分の労力を省いて、文章を整理せずに相手に押しつけてしまう。

 そう考えると、メールの巧拙は「文章力」よりもむしろ「思いやり」の問題だ。ぐちゃぐちゃなメールを送る人は、文章が下手なのではなく、相手への想像力が欠けているのだ。

(本原稿は、トッド・ロジャース、ジェシカ・ラスキー=フィンク著『忙しい人に読んでもらえる文章術』〈千葉敏生訳〉に関連した書き下ろし記事です)