メリットもあればリスクもある!
社会保険料と手取りの“逆転現象”とは?
ボーナスの給与化のメリットが分かったところで、改めて給与と賞与の定義をおさらいしましょう。労働基準法上、給与は「毎月一定期日に支払う賃金」、賞与は「会社が任意に定める一時金」と区分されます。就業規則で賞与をあらかじめ明示していても支給義務が生じるのは例外的で、業績や人事評価に応じて変動しやすい性質を持っています。
また、社会保険上の取り扱いも異なります。給与は健康保険・厚生年金ともに「標準報酬月額」で毎月保険料を算定しますが、賞与は支給のたびに「標準賞与額」を役所へ届け出て計算します。
厚生年金の場合、賞与にかかる保険料には1回150万円の上限があり、それを超える部分には保険料がかかりません。標準報酬月額には65万円(25年7月時点)の上限が設定されています。
また、時間外割増手当の算定基礎に給与は含まれますが、賞与は原則含まれません。同じ年収でも支給形態を変えるだけで、保険料負担や割増賃金が変わる点が制度の要諦です。
このように、ボーナスの給与化は単なる「呼び方の変更」ではなく、会社と社員の双方に多面的な影響を及ぼす可能性があります。そのメリットは先述しましたが、逆にリスクはないのでしょうか?こちらも主に次の三つが考えられます。
(1)社会保険料と手取りの“逆転現象”
標準報酬月額が上限未満の多くの社員は、賞与分が月給に上乗せされると等級が上がり、毎月の保険料控除額が増加します。年間総額では保険料負担がほぼ同じでも、月々の天引き額が増えることで「損をした」と感じやすくなります。
一方、すでに月65万円の上限に到達している高所得層は、月給を増やしても保険料が据え置かれ、その分が手取りに直結します。また、1回150万円を超える賞与を受け取っていた社員は、賞与方式なら超過分に保険料がかかりませんが、給与化すると全額が保険料計算の対象となり手取りが減少します。
このように社内で得をする層と損をする層が混在する場合、制度変更が不公平と受け止められれば会社への不信感を招きかねません。
(2)モチベーションと定着率の低下
賞与は「成果を可視化し、メリハリをつけるご褒美」として機能してきました。年に二度の大きな支給イベントにより期待と達成感が生まれ、節目でまとまった資金を確保できる利点があります。
給与化でこのイベント性が失われると、評価と報酬のつながりが見えにくくなり、「頑張りが形にならない」と思われる恐れがあります。さらに「他社はボーナスで盛り上がっているのに当社はない」といった比較が、士気や帰属意識を揺るがしかねません。