ユニクロよりも早かった?剛腕社長がブチ上げた「意外な専門店」の計画とは【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第25回では、かつて存在したユニクロの“とある店舗”の戦略について解説する。

どこにでもあるような店ならやる意味がない

 幼なじみのノブ(木村ノブオ)と元同級生のヨーコ(工藤陽子)を故郷・秋田のTシャツ工場に送り出し、さらに居酒屋事業から撤退した主人公・花岡拳。Tシャツ事業では、居酒屋のリーダー的存在で服飾デザインの専門学校出身の佐伯真理子をメンバーに加え、社員たちに次の事業を語り始めた。

 それは、都内の商業エリア各所に自分たちが作るTシャツ「だけ」を売る直営店舗を展開するというものだった。

 年中Tシャツだけを売ること、直営店を都内各所に展開することなど、社員の多くがこの事業に疑問の声を挙げるが、花岡はさらに自信をつけてこう返す。

「さっき、そんな店見たことも聞いたこともないといったな…だからいいんだ」

「どこにでもあるような店ならやる意味がねえ。やるならズバ抜けた個性が必要だ」

 花岡はさらに、「自分たちには強力な武器がある」と続ける。それは「自社で商品を生産している」ということだ。川上から川下まで、つまり製造から販売までを自分たちで手がけることで、すべての利益を手に入れられるビジネスモデルだと自信を見せる。

実在したユニクロの「Tシャツ専門店」

漫画マネーの拳 3巻P161『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 花岡の語る「川上から川下まで」を自分たちで手がけるというのは、まさに連載第13回で触れた「SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:企画から生産・製造、販売までのバリューチェーンを自社で一気通貫したビジネスモデル)」そのものだ。

 同回でも触れたが、日本でSPAモデルの事業を展開する代表例はユニクロや無印良品。そして花岡が語った新事業は、そのユニクロが手がけるビジネスモデルと、かつて存在した“ある店舗”を想起せざるを得ない。

 2007年4月、ユニクロは東京・原宿に「UT STORE HARAJUKU.」をオープンした。その特徴はズバリ、「Tシャツしか売っていない」ということ。それも、プラスチック製のボトルに入れて販売するという見た目にも画期的なものだった。

 店舗に来店した客たちは、サンプルとして店内に吊るされているTシャツを手に取り、そのTシャツのナンバーを確認する。そして什器から同じナンバーのボトル(Tシャツ)を手に取って購入するという仕組みだ。店内には常時500種類程度の柄がそろっていたという。

 今でこそデザインや素材などでも話題を集めるユニクロのTシャツだが、当時はそこまでの認知がなかった。同店はそんなTシャツをブランディングする、つまりは「Tシャツ専門の旗艦店」だった。

 マネーの拳のこの回を収めたコミックスが発売されたのは2006年3月だ。そう考えると、この回が初めて世に出た頃には、まだUT STOREはなかったことになる。花岡の先見の明には、マンガながら驚かされる。

 いよいよ本丸となる新事業に動き出した花岡たち。新事業について出資者・塚原為ノ介に報告に行ったところで、また新たな商売の鉄則を知ることになる。

漫画マネーの拳 3巻P162『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 3巻P163『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク