トランプ一族に賭けた無名企業、今や投資仲介役にドミナリ・ホールディングスのアンソニー・ヘイズCEO(左)とカイル・ウール社長(ニューヨークのトランプ・タワーで撮影)
Photo: Shuran Huang for WSJ

 世界で最も影響力のある一族に信頼される金融パートナーになるには、安値で買うことが役に立つ。つまり、先方の価値が低い時期に関係を築いておくことだ。

 累積損失が2億5000万ドル(約370億円)ほどに達していた小規模なバイオテクノロジー企業が、トランプ一族の事業帝国における社内投資銀行に変貌を遂げたのは、それが理由の一つだ。今では暗号資産(仮想通貨)から製造業案件まで手掛けている。

 現在はドミナリ・ホールディングスという名称で知られる同社が異例の台頭を始めたのは、2021年のことだった。ドナルド・トランプ氏の支持率は同年1月6日の米議会議事堂襲撃事件を受けて急落。民主党議員や検察は、後に多くの刑事・民事訴訟を抱えることになるトランプ氏と同氏の関連企業を調査していた。ウォール街でトランプ氏に賭ける者はほとんどいなかった。

 ちょうどその頃、ドミナリのアンソニー・ヘイズ最高経営責任者(CEO)は、当たり外れの大きい医薬品開発から離れて荒々しい金融の世界に参入することを検討していた。同氏は友人でウォール街のベテランであるカイル・ウール氏(48)を取締役に迎え入れ、2人はすぐに事業拡大に向けて広いオフィススペースを探し始めた。

 どこにでも入居できたが、当時は悪い意味で有名だったマンハッタンの不動産を選んだ。ヘイズ氏は最近のインタビューで「何かを行い、ゼロから構築するのであれば、トランプタワーに小さなスペースを確保してはどうかと考えた」と述べた。

 この選択の背後には大きな計画があった。トランプ氏が予想外の政界復帰を果たしたことで一族のビジネスは爆発的に拡大し、一族が米国で最高位の職とそれに伴う人脈を利用して利益を得ているとの批判を再燃させた。活動が急増したため、ウォール街の一流企業ではなかったドミナリのようなアドバイザーに機会が生まれた。