海、山、川で、夏のレジャーを予定しているファミリーは多いだろう。しかし、豊かで美しい自然の中には、危険な生き物も潜んでいる。ハチや蛇、クラゲなどに襲われたら、せっかくの楽しい思い出が台無しだ。そこで本記事では、池上彰総監修『いのちをまもる図鑑』(ダイヤモンド社)で第3章「ケガ・事故からいのちを守る」の監修を務めた救急科専門医の西竜一氏に、「ハチ・蛇・クラゲに襲われたときの対処法」について聞いた。子ども自身が、自分の身を守る知識を身につけるためにも、この本に書かれているアドバイスを、夏休みの食卓の話題にしてみてはいかがだろうか。(取材・構成/樺山美夏)

【夏のアウトドアの危険!】ハチ・蛇・クラゲに襲われたらどうする? もしもの時の対処法Photo: Adobe Stock

ハチに遭遇したときの対処

――ハチに刺されたことがある人は、アレルギー症状を引き起こしやすいんですね! 知りませんでした。

西竜一氏(以下、西):そうです。そのため、まずはハチを寄せつけない予防策をとりましょう。
『いのちをまもる図鑑』にも書きましたが、「ハチにとって動くものは敵!」です。しかも、ハチは仲間を呼ぶこともあるため、ハチが近寄ってきたらしゃがんで岩のふりをして動かないでください。
スズメバチには、人間の黒い髪を警戒して襲う習性もあるようなので、髪の毛を振り乱して追い払おうとすると逆に襲われる可能性大です。

――香水のように匂いが強いものをふりかけるのも、香りに敏感なハチが興奮して襲われやすいと、本に書いてありました。

西:ハチに遭遇したら余計なことはせず、去っていくまでじっとしているに限ります。
でも、もし刺されてしまったら、皮膚に針が残っているかどうか確かめて、残っていたら毛抜きかピンセットで抜きます。アウトドアでは、トゲのある植物を触ってしまうこともあるので、毛抜きかピンセットを携帯していると便利です。

ハチに刺された傷口は、きれいな水で洗い流して、痛みや腫れがあれば、氷か保冷剤で冷やします。刺されてから15分から30分程度で、全身にじんましんが出る。
じんましんだけであれば問題ありませんが、加えて息が苦しくなる、声がかすれる、吐き気や腹痛が起こる、意識がもうろうとするなどの症状が現れたら、アナフィラキシーの可能性が高いです。これは命に関わる緊急事態ですので、迷わず119番通報してください。

ヘビにかまれたらどうすればいい?

――怖いですね。山を歩いていると蛇に遭遇することもありますが、もしかまれたらどうすればいいでしょうか?

西:日本に生息する蛇の多くは無毒ですが、マムシは強い毒を持っています。しかも、チクッと噛んで去っていくので、噛まれたことに気づきにくいのですが、血管や筋肉を溶かす毒を持っています。

――日本では毎年、2000~3000人がかまれて、そのうち10人ほど亡くなっていると、『いのちをまもる図鑑』を読んではじめて知りました。

西:もしも蛇にかまれて、パニックになって走り回ると、血流がよくなり毒のまわりが早くなります。あせらず、洗って病院を受診するなど適切に対処してください。

――逆に、蛇にかまれたとき、やってはいけないことはありますか?

西:毒を口で吸い出そうとすることです。映画か何かの影響で信じている方がいるのですが、効果は期待できませんし、救助者の口の中に傷があれば、感染するリスクがあります。
それと、傷口をきつく縛るのもダメです。昔は、間違った知識でそのような処置が行われていましたが、血流を完全に止めてしまい、組織が壊死するリスクがあります。

蛇に噛まれた場合は、毒がない蛇だと思っても、必ず医療機関を受診してください。特に、山間部の病院は、その地域に生息する毒蛇の血清(抗毒素)を常備していたり、そもそも対処法に詳しいです。一方、都市部の大きな病院は経験が少ないため、現地の病院へ急いだほうが賢明です。

クラゲに刺されたら?

――なるほど。アウトドアレジャーの予定を立てたら、地元にある病院も調べておいたほうがいいわけですね。最後に、海水浴でクラゲに刺されたときの対処法も教えてください。

西:クラゲの触手には、「刺胞(しほう)」という毒の入ったカプセルが無数についています。そのため、まずは海水で洗い流してください。真水や水道水、アルコールで洗うと、浸透圧の違いで刺胞が刺激され、さらに毒が出てしまいます。必ず、きれいな海水でこすらずに優しく洗い流してください。
もし、皮膚に触手が残っていたら、素手で触らず、ピンセットや手袋、タオルなどを使ってそっと取り除きます。それから、氷や冷水で冷やしてください。

痛みが非常に強い場合や、ハチに刺されたときと同様に全身にじんましんなどの症状が出た場合は、アナフィラキシーの可能性も考えられます。すぐに医療機関を受診したほうがいいでしょう。

――わかりました。夏のレジャーは子どもたちの楽しみですが、なるべく、ハチや蛇、クラゲに遭遇しない場所選びも大事だなと思いました。

西:そうですね。危険な場所にむやみに近づかない、肌の露出を控えるなど、遭遇しないか噛まれないための予防が、何よりの対策です。

※本稿は、『いのちをまもる図鑑』(ダイヤモンド社)についての書き下ろし対談記事です。