【解説】逆境で磨かれた「課題発見力」

菊池の波乱に満ちた経歴は、一見すると非効率な遠回りに見えるかもしれません。しかし、度重なる挫折と経済的な苦境は、彼に人の痛みを理解する深い洞察力と、簡単には折れない精神力を与えました。

多くの才能ある作家たちが彼を慕い、公私にわたる相談を持ちかけたのは、この人間力があったからこそです。

ビジネスの世界でも、困難な状況でこそ真の課題を発見し、周囲を巻き込みながら解決に導く力が求められます。菊池の経験は、逆境こそが人を成長させる最大の機会であることを教えてくれます。

情熱を「仕組み」に変えるプロデュース術

菊池の真骨頂は、自らが愛する文学を、個人の才能任せの不安定な世界から、持続可能な「産業」へと昇華させた点にあります。

出版社「文藝春秋」を立ち上げ、芥川賞や直木賞を創設したことは、作家に明確な目標と活躍の場を与え、読者には良質な作品と出会う機会を提供するという、優れた「仕組み」の発明でした。

これは、自身の専門分野や情熱を、いかにして社会的な価値やビジネスモデルに転換するかという、現代のビジネスパーソンにとって極めて重要な視点です。

彼の生き様は、変化の時代をしなやかに生き抜くためのキャリア戦略そのものとも言えるでしょう。

※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。