なぜ文豪たちは悪口を書かれても黙ったのか? 元祖“文春砲”に学ぶ「貸し」の作り方
文芸作品を読むのが苦手でも大丈夫……眠れなくなるほど面白い文豪42人の生き様。芥川龍之介、夏目漱石、太宰治、川端康成、三島由紀夫、与謝野晶子……誰もが知る文豪だけど、その作品を教科書以外で読んだことがある人は、少ないかもしれない。「あ、夏目漱石ね」なんて、名前は知っていても、実は作品を読んだことがないし、ざっくりとしたあらすじさえ語れない。そんな人に向けて、文芸評論に人生を捧げてきた「文豪」のスペシャリストが贈る、文芸作品が一気に身近になる書『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)。【性】【病気】【お金】【酒】【戦争】【死】をテーマに、文豪たちの知られざる“驚きの素顔”がわかる。ヘンで、エロくて、ダメだから、奥深い“やたら刺激的な生き様”を大公開!
※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

大ヒット作『真珠夫人』作者
マルチな才能に驚愕
雑誌メディアが君臨した時代
インターネットがない当時、一大メディアである雑誌に名を連ねる小説家たちの影響力は、いまでは考えられないほど大きなものでした。
そんな時代に川端康成や谷崎潤一郎、南部修太郎など、大物から無名に近い書き手まで、総勢68人をとり上げて“文春砲”を放ちました。
友の評価に激怒! 赤裸々な作家の通信簿
『文藝春秋』の創刊から参加していた作家の横光利一は、一方的にあれこれ書かれて激怒し、菊池と「絶交する」とまで言い出したそうですが、親友の川端康成に「まあまあ」となだめられたそうです。
ちなみに『文藝春秋』刊行の翌年、大正13(1924)年2月号で、「文壇諸家価値調査票」という企画を掲載しました。学校の成績表のように、文壇の作家たちのあれこれを採点するという“皮肉を込めたゴシップ記事”です。
横光利一の評価は「学殖 七五」「天分 六〇」「修養 八九」「度胸 九〇」「風采 五二」「人気 七三」「資産 菊地寛」「腕力 六二」「性欲 六九」「好きな女 娘」「未来 六六」とあります。
恩とゴシップの絶妙なバランス
菊池は売れない小説家にもお金を貸したり、仕事を与えたりと、公私ともに世話を焼きました。
結局、菊池に多大な恩がある作家たちは、こういうことを好き勝手に書かれても、あまり文句を言えなかったようです。
時代の波を読む天才プロデューサー
座談会やゴシップの記事もそうなのですが、菊池は新しい社会の到来や時代の波を鋭敏に観察しながら、雑誌を運営しました。そこに優秀で可能性のある書き手たちを集合させたのです。
文芸誌のプロデューサーとして先鋭的で、それを大正時代にやったという先見性と創造性が卓越していると思います。