ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、パリジェンヌ流「最高の自分になるための神習慣」を提案したのが、著書『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』。かつて痩せることに時間と労力を費やし、「痩せればいろいろなことを解決できる」と頑なに信じていた著者。しかし、多くのパリジェンヌと出会った今、その考えは根本から間違っていたと言います。パリジェンヌのように自身と向き合い、心身のバランスを整える習慣を日々実践することで、自分らしい美しさと自信を手に入れることができるのです。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように幾つになっても魅力的に生きる秘訣をお伝えします。

フランスには「お土産文化」は存在しない
入社して3年後、PRマネジャーに昇進した私は出張で世界中を飛び回っていました。大規模な店のオープニングやプレス・ツアーなど、イベントはひっきりなしにあり、一日24時間あっても足りないような日々でした。
「体調管理も仕事のうち」という上司の助言はどこへやら。私はとにかく仕事をやりこなすので精一杯、全く余裕のない日々を過ごしていました。そして自分の体と心の健康などは後まわし、正確に言えば、そんなことは考えもしない毎日でした。
出張帰りの私はよく、チーム・メンバーのためにお土産を持ち帰りました。内容は現地で話題のチョコレートや焼き菓子など、スイーツであることがほとんどでした。日本人の感覚からすれば当たり前のことかもしれませんが、フランスには「お土産文化」というものは存在しません。
考えてみれば、オフィスで菓子折りを見たことがありません。私がお菓子を持ってくると、それはそれで喜んでもらえるのですが、他にそんなものを配る人もいなければ、自分用にお菓子を持ち込んでいる人もいません。普段からオフィスでスイーツを食べる人を見かけないのです。
「お菓子を作ってきたんです!」などという手作り女子も見事に皆無です。誕生会や季節の行事などの特別な機会を除き、みんなで甘いものを分け合う習慣もありません。どうやら息抜きにはコーヒーかお茶だけというのがパリジェンヌの常識のようです。それが私はしばらく不思議でなりませんでした。
パリジェンヌが間食をしないで済む理由
フランスの夜ごはんは遅く、20時を過ぎてからです。PRたちは滅多に残業しませんが、それでも朝がゆっくりなので、退社時間は19時頃になります。オフィスで過ごす午後の時間は結構長いのです。
ランチをサラダなど簡単なもので済ませていたダイエット中の私は、午後3時を過ぎると無性に甘いものが食べたくなってしまい、我慢できずによく何かしら口にしていました。社内の自動販売機で売っているブラウニーやクッキーのような激甘の、そして大して美味しくもない市販のお菓子です。
なぜ周りのパリジェンヌは私のように間食をしないで済むのでしょうか。その理由はランチに出掛ける機会が増えてからやっとわかりました。そしてその答えは至って単純明快なものでした。それは、パリジェンヌがランチの際、「必ずデザートまでしっかり食べているから」です。
それはフォンダン・オ・ショコラやタルトのような焼き菓子のこともあれば、アイスクリームやフルーツ・サラダのような簡単なものだったりもします。「カフェ・グルマン」という、エスプレッソに一口サイズのスイーツが2つ、3つ付いてくる定番メニューもあるくらいです。ソフィアなどは、
「甘いもので締めないと食べた気がしない」
と言います。振り返ってみると、ソフィアも、アート記者のマリアンヌもデザートは決して外しません。ファニーも然りです。「太りたくないから」という理由でデザートをパスしているのは私だけだったのです。
私がとても意外だったのは、パリジェンヌにとってスイーツは「午後のお楽しみ」ではなく、「食事の一部」という位置付けにあったことです。フランスにはアフタヌーンティーの習慣がありません。
デザートは学校の給食でも、家庭内でも、必ず昼食、そして夕食に出されるものです。それは市販のヨーグルトやムース、フルーツのコンポートなど、質素なものであることが多く、必ずしも焼き菓子やケーキが出てくるわけではありません。それでも甘いものは食事に欠かせない大事な要素なのです。
つまり、パリジェンヌは幼少の頃から、スイーツを食後に「デザートとして摂る」ことが習慣化しているのです。それはなぜかと言えば、まず単純に身体が「糖分を欲する」ということが挙げられます。フランス料理には和食のようにお砂糖が含まれていないので、食後に甘いものが欲しくなるのです。
パリジェンヌの秘密は「デザートを食べるタイミング」
ですが、それだけではありません。この「デザートをしっかり食べる」という習慣が思った以上に理にかなっていることは、この連載でも紹介したジェシー・インチャウスペ氏の著書『Glucose Revolution』(日本語訳タイトル『人生が変わる 血糖値コントロール大全』かんき出版刊)で弁証しています(本の内容を要約すると、血糖値の変動の幅が小さいほど、健康になることができるというものです。更には、血糖値が急に上がると、脳は血糖値を下げるべく多くのインスリンを分泌させるため、脂肪をためやすくなり、結果的には太りやすい体型になってしまうというのです)。インスタグラムで560万人のフォロワーを誇る彼女が推奨する食べ方の一つに、「甘いものはおやつの時間ではなく、食後に取れ」というものがあるのです。
つまるところ、「空っぽのお腹に糖分を取り入れるよりは、食後に取り入れた方が、血糖値の変動幅をより小さくすることができる」と言うのです。
このことも私は最近になって知ったわけですが、思い返せばそれはそのままパリジェンヌの食習慣なのでした。つまり、同ベストセラーが欧米諸国で話題になるずっと、ずっと前から、パリジェンヌは無意識的に身体に良い、そして太りにくい食べ方を実践していたということになります。
デザートまでしっかり食べるようになってからというもの、私も午後、甘いものに手を出すようなことがなくなりました。間食をしなくなったのです。そしてお土産に菓子折りを持参するようなこともなくなりました。
私がパリジェンヌの食習慣を本気で取り入れ始めたのはこの頃からですが、まだまだ道のりは長いのでした。