ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、パリジェンヌ流「最高の自分になるための神習慣」を提案したのが、著書『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』。かつて痩せることに時間と労力を費やし、「痩せればいろいろなことを解決できる」と頑なに信じていた著者。しかし、多くのパリジェンヌと出会った今、その考えは根本から間違っていたと言います。パリジェンヌのように自身と向き合い、心身のバランスを整える習慣を日々実践することで、自分らしい美しさと自信を手に入れることができるのです。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように幾つになっても魅力的に生きる秘訣をお伝えします。

自己肯定感でしなやかに生きるパリジェンヌたち
実にいろいろな体型をしているパリジェンヌです。その彼女達が「痩せること」にこだわらず、それでも美しく、しなやかに生きている背景には、どうやらこの「自己肯定感」が深く関係しているようです。
ある日、私はイベント担当のイリスと一緒に五つ星ホテルのプール・サイドに立っていました。数ある五つ星ホテルの中でも、室内プールに定評があるだけあって、そこはうっとりしてしまうくらい素敵な場所でした。
ピカピカの大理石。キラキラ光る水面。プール・サイドに間隔をおいて並べられた真っ白なデッキ・チェア。今すぐ水着に着替えてプールに飛び込みたくなる衝動を抑え、私はイリスのそばに控えていました。イベントの下見に来ていたのです。
その五つ星ホテルはその年の暮れ、リニューアルのために数年扉を閉じることになっていました。大工事の施工が始まる直前の時期を狙い、イリスはプール・サイドを借り切ってカクテル・パーティーを催す計画を立てていました。それまでプールの貸し切りをいっさい許可してこなかったホテルですから、それが叶えばかなりの快挙です。
プールサイドに現れたシワシワの“鉄人”
その日は平日、しかも午前中ですから、プールはガラガラです。イリスはさっそく責任者と座り込み、交渉をしています。イリスに頼まれて同行した私ですが、ここまで専門的な話になると口を挟(はさ)むことができません。仕方ないので、プール・サイドをもう一回りしていると、ゆっくり、ゆっくり階段を降りてくる人がいました。
シワシワのおばあさまです。水着姿で体操を始めた彼女ですが、頼りないのでこちらはハラハラしてしまいます。
ひと通りの体操が終わった頃、スタッフがそっとスイムヘルパーを持ってきました。おばあさまはそのうちの一つを背中に巻きつけ、スルリとプールに入ったかと思うとさっそく泳ぎ始めました。歩き方からは想像できないほど、滑らかな泳ぎです。
それだけでも驚きだったのですが、おばあさまはその後、背泳ぎ、平泳ぎ、横泳ぎと、ひたすら泳ぎ続けます。ゆうに80歳を超えているように見えるおばあさまですが、私なんかよりよっぽどスタミナがあります。
ホテルの責任者とイリスがいる場所に戻り、
「あの人、すごいですね!」
ついそう漏らすと、責任者が言いました。
「ああ、あの方は毎日、こうして泳ぎにいらっしゃるんですよ」
毎日と聞いて私は更に驚いてしまいました。「ラ・パリジェンヌ」以来、「毎日少しでもいいから走ろう!」と自分に言い聞かせた私ですが、実際のところ、完全な三日坊主でした。ランニング・イベントというモチベーションがあった時はまだよいのですが、それが終わってしまうと気分も完全に萎えていました。
「毎日、ですか?」
半信半疑でそう聞き返すと、ホテルの責任者は大きく頷きました。
「祝日であろうが、ストライキがあろうが、毎日です」
すると、イリスが深い溜め息をついてから言いました。
「続けるのが一番大変よね。運動は体に良いってわかってはいるんだけど」
彼女も二度、高いお金を払ってジムに登録したはよいものの、結局行かずじまいになってしまったというのです。
そのおばあさまの鉄の意志はどこから来るのでしょう。その謎が解明されたのは、その翌週、再びそのホテルを訪れた時のことです。昼前、ロビー・ラウンジで人待ちをしていると、プール帰りのおばあさまが現れたのです。
彼女が座るや否や、温かい紅茶とキッシュが運ばれてきました。どうやら、泳いだ後にここで軽い昼食を取るのが彼女の日課のようです。その様子があまりに素敵なので思わず見つめていると、私の視線に気が付いたおばあさまがこちらを見てニコッと笑いました。それに勇気付けられた私は席を立ち、彼女のところに歩み寄りました。
失礼を詫びながら、思い切って先週プールでお見かけしたこと、その泳ぎっぷりに感心してしまったことを言うと、おばあさまは、
「少しお座りなさい」
と言います。ちゃっかり座り込んだ私はいつしか、毎日走ろうと思っているのに全く続かないことなど、我が身の恥をさらけ出していました。
それは走るのが性に合わないからよ
おばあさまは「ほっ、ほっ」と笑った後、こう言いました。
「それは走るのが性に合わないからよ」
それを聞いた私はハッとさせられました。なるほど、スポーツには合う、合わないがあります。球技が嫌いな人もいれば、水泳が苦手な人もいます。体が硬い人もいれば、持久力のない人もいます。性に合わないものが続かないのは、当たり前なのです。
「私は前世、人魚だったのよ!」
そう言うお茶目なおばあさまは、90歳を迎えたばかりだと言います。
そして誕生日の日も変わらず、いつものプールで泳ぎ、いつものお茶を飲み、いつものキッシュを食べたそうです。