ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、パリジェンヌ流「最高の自分になるための神習慣」を提案したのが、著書『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』。かつて痩せることに時間と労力を費やし、「痩せればいろいろなことを解決できる」と頑なに信じていた著者。しかし、多くのパリジェンヌと出会った今、その考えは根本から間違っていたと言います。パリジェンヌのように自身と向き合い、心身のバランスを整える習慣を日々実践することで、自分らしい美しさと自信を手に入れることができるのです。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように幾つになっても魅力的に生きる秘訣をお伝えします。

誕生日に届いたチョコ尽くしケーキ
入社して1年ちょっとした頃、私は30歳の誕生日を迎えました。節目ということでその日の午後、上司や同僚達が大きな花束とバースデー・ケーキを用意してくれました。まだまだ不慣れで仕事に忙殺され、職場の人間関係に悩んでいた私です。その心遣(こころづか)いがとても嬉しく、なんだか受け入れられた気がして心がポッと温かくなったのを今でもよく覚えています。
チョコレートのスポンジ生地にチョコレート・ムース、チョコレートのコーティングと、チョコ攻めのバースデー・ケーキは三段重ねの大きなものです。美味しいチョコレートに目がない私ですが、その日ばかりはそれを見た瞬間、
「ひえ~!」
と反応してしまいました。
パリジェンヌはカロリーを気にしない
ちょうどその日、私はファッション雑誌のエディターさんとランチを共にし、甘い、甘い、「ムース・オ・ショコラ」というフランス定番のデザートを食べたばかりだったのです。3人前くらいはあるかと思われるそのチョコレート・ムースを完食していたのです。
私の反応を嬉しい悲鳴と勘違いしたヤスミナが、バースデー・ガールの私のために人一倍大きな一切れをよそってくれました。私より年上、30代半ばのヤスミナは上司のアシスタントをしているモロッコ系のフランス人です。豊満なボディが魅力的で、いつも体のラインを強調する個性的な服を着こなしています。
そのヤスミナが有名なパティスリーから取り寄せてくれたというケーキは思ったより甘さ控え目で美味しく、思わずおかわりをしたくなってしまうくらいでした。
「もう一切れどう?」
としきりに勧めてくるヤスミナに、
「カロリー高そうだから遠慮するわ」
と答えると、彼女は言いました。
「カロリーなんて気にしても意味ないわよ」
そういえば、ヤスミナにしろ、ソフィアにしろ、同僚のパリジェンヌがカロリーを気にしているのを聞いたことがありません。試しに、
「ケーキ一切れ、何カロリーあると思う?」
と聞いてみると、ヤスミナは答えに詰まっています。周りのパリジェンヌ達も、誰もピンとこないようです。本当にわからないのです。
カロリー計算をしないパリジェンヌの価値観
日本人なら、大概の人は「ケーキ一切れ300~400キロカロリー」と大体の予想がつくと思います。コンビニ・スイーツやスナック菓子にはカロリー表示がしてあることが多く、私たちはカロリーというものに敏感です。ダイエットといえば「カロリーを気にする」人が大半なのではないでしょうか。
ところが、ダイエットに無頓着なパリジェンヌは、「カロリー計算をしたことがない」と言うのですから、私は呆れてしまいました。するとヤスミナは、
「ケーキを見て数字が頭に浮かぶジュンの方が変よ」
と断言します。
オフィスはいつしか、誕生会もそっちのけでカロリー談議に湧いていました。ひとしきりの意見が出終わった後、ヤスミナが言いました。
「カロリーなんか気にしていると、せっかくこうやって美味しいケーキを食べても罪悪感が残るだけじゃない。それって何か違うと思うの」
ヤスミナに異論を唱える人はいません。私はぐうの音も出ず、考え込んでしまいました。こうして、わざわざ誕生日を祝ってもらい、とびっきり美味しいケーキを用意してもらっているのに、純粋に喜べない私は一体なんなのでしょう。そしてこの罪悪感はどこから来るのでしょう。
幸せを感じるために必要なこと
ダイエットをしているのに私のように「食べてしまった」と後悔し、自己嫌悪に陥ること、ありませんか? 自分の意志が弱過ぎることに幻滅(げんめつ)してしまう人もいるかもしれません。無理に痩せる努力ばかりしていると、モヤモヤした感情に取り憑かれ、ますます自分が嫌いになります。自分に対する自信を喪失してしまうのです。
カロリーを気にしないパリジェンヌは無理なダイエットをしません。もっと言えば、痩せるためだけのダイエットを嫌います。それはなぜかといえば、彼女たちがこのモヤモヤな感情に囚(とら)われることを嫌うからです。
別の言い方をすれば、それはつまり、自分を責めたくないから、自分に幻滅したくないから、そして自分を嫌いになりたくないからです。
意を決して私がチョコレート・ケーキをおかわりすると、拍手喝采が起こりました。ヤスミナもとても嬉しそうな顔をしています。
「わざわざ取り寄せてくれてありがとう」
お礼を言うと、彼女もおかわりをしながらこう言いました。
「ダイエットをしても『幸せ』とは決して思わないけど、美味しいケーキを食べた時は本当に幸せよね!」
(幸せの味ってこういうものか……)
そう思いながら、私は2切れ目のバースデー・ケーキを心置きなく堪能したのでした。