「本当にそれで大丈夫?」「こうしたほうがいいんじゃない?」そんなふうに言われてしまうことはありませんか?「なぜいつも、干渉されるんだろう……」と悩んだとき、私たちはどうすればいいのでしょうか?
累計20万部を超えるベストセラー著者、林健太郎氏が執筆した『なぜか干渉される人 思わず干渉してる人 あの人と「いい距離感」を保つコミュニケーション術』から「しんどい相手」が「心地よい人」に変わる、いい距離感を保つためのコミュニケーションを本記事で紹介します。

いつまでも教えてしまう
ここで私の専門分野であるリーダーシップの分野から、部下育成の話を書かせてください。
部下育成とはまったく無縁な読者の方も、ぜひ、ご自身の子育てや親子関係、後輩との関係などに当てはめて読み進めてみてください。
それでは、さっそく本題に入っていきましょう。
「やめたほうがいい、こうしたほうがいい」と善意で言った結果、相手はかえって不快になるという話は、これまで何度もしてきたとおりです。
とはいっても、毎回、間違いなく不快になるとは限りません。
「ありがとう、やってみる」と言ってくれるパターンも、あるにはあります。
一見、願ったり叶ったりに思えますが、油断は禁物です。実はこのパターン、静かに自分の首を絞めることにつながっています。つまり、相手の「依存」を誘ってしまうのです。
職場の上司と部下で考えてみましょう。
部下育成をする際の鉄則は、「徐々に手を放す」ことです。
最初はやり方を教えるけれど、少しずつ自分一人でできるようにしていくことが不可欠です。
ところがリーダーの中にはしばしば、手を放す時期を逸する人がいます。
新人でもない部下に、いつまでも教えてしまうのです。
なぜそうなるのでしょう。理由は簡単。「教えたほうが早い」からです。
ひたすら聞いて、相手に答えを出させるのは時間のかかる作業です。
相手が自分で考えてくれるのを待つより、「ああしたら? こうしたら?」と示したほうがはるかに時短になります。
忙しい人ほど、この誘惑に駆られがちです。
しかしその結果、部下はいっこうに育たなくなります。
部下にとっても、こういう上司はラクです。悪く言えば「ちょろい上司」です。
部下「部長、××で困ってるんです。どうしたらいいでしょう」
上司「ああ、それなら○○するといいよ」
部下「え~、やったことないです。どうやるんですか」
上司「△△して□□するといいんだよ」
部下「えっ、私それまだ、できるようになっていないんですが」
上司「え、そうだっけ!? ……いいよ、私がやっておくよ」
本来は部下がすべき仕事を、上司が引き受ける羽目になってしまいました。
部下全員にこの調子で接していたら、「世話係地獄」という、大いなる時間のロスが発生します。
目先の時短に目がくらむと、結局は上司が損をするのです。
では、部下はどうでしょう。
困った顔で「どうしよう~」と言うだけで全部やってもらえて、ラッキーでしょうか?
長い目で見ると、やはり不幸です。いつまでも主体性を持てない働き手は、仕事のやりがいを味わえません。
そしてできなかったことができるようになる瞬間の、大きな喜びも体験できません。
成長実感がないと、自尊心も、自立心も育たないのです。
「というと?」と聞いて相手に考えさせる
リーダー職の方にこのように話すと、必ず聞かれることがあります。
「理屈はわかるけど、実際の現場で『手を放す』のは難しいです。コツってありますか?」
答えはYESです。「というと?」と聞けばいいのです。
かつて私が会社勤めをしていた頃、これを連発する上司がいました。
林「ちょっとご相談があるのですが、今お時間よろしいですか? 実はこの展示会に出展したいと思っていまして。稟議書をつくってきました」
上司「ほう。というと?」
林「今期発売した商品の売れ行きがあまり芳しくなくて。今までの顧客層だけではなく、新しいお客様にアピールできる機会になるかなと」
上司「ふむ、というと?」
林「(え、まだ聞く?)これは私の考えですが、商品の特徴が新し過ぎて、今のお客様層のニーズと合っていないと思うんです。むしろ今まで取引の少ないベンチャー企業のほうが興味を示すのでは……。この展示会への出展、いい足がかりになると思うんですけど」
上司「うんうん、というと?」
林「(ま、まだ聞く!?)えっと、新規顧客の開拓になると思いまして。やったほうがいいと思うんですが……」
上司「というと?」
林「あ、この展示会出展は今期の予算としてあらかじめ計上していないのですが、そういった理由もあって予算をいただけないかという相談でした。それで、稟議書をつくってきたのですが、こちらをご確認いただき、OKでしたら承認していただけますでしょうか?」
上司「ああ、そういうことね。わかった、やっとく」
この調子でエンドレスに聞かれるので、毎度閉口したものです。
上司からすれば、稟議書にハンコを押して欲しい、という私の要望には最初から気づいているはずです。
しかし、そこで過剰に干渉せず、しっかり部下である私に自分の口で要望を伝えることができる流れをつくる意図が見て取れます。
こんな、ある意味「育成上手」な上司のもとで育てられ、私も相談や報告の仕方が変わりました。
上司の「というと?」に耐えられるよう、事前に言語化して、端的に言えるようにしておくことが習慣になったのです。
自分の頭で考える癖をつけていただいた、と今でも感謝しています。
部下育成中の方はぜひ、この方法を導入してみてください。
これは、投資と同じです。さっさと正解を教えるのを我慢して「というと?」と聞いていると、半年から1年くらいで、部下が自分で考えてくれるようになります。
最終的に、大幅な時短となって返ってくるのです。
(本記事は『なぜか干渉される人 思わず干渉してる人 あの人と「いい距離感」を保つコミュニケーション術』から一部を抜粋・編集して掲載しています)