仕事も勉強も、やる気はあるのに先延ばししてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』だ。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。この記事では、特別に本書から一部を抜粋し、モチベーションにまつわる心理学の最新知見を紹介します。

「有言実行の人」と「口だけで行動できない人」を分ける1つの決定的な考え方の違いPhoto: Adobe Stock

前回までのあらすじ

 やることを先延ばししがちな人には、目標を立てるのが効果的です。

 目標を持つと「今の自分」と「理想の自分」のギャップが意識され、その差を埋めようと行動が促されます。

 さらに、「目標を達成した理想の自分」を具体的に、エピソード的に想像することで、目標に向けた行動を取りやすくなることがわかりました。

>>前回:「努力が続く人」と「三日坊主の人」目標の持ち方に1つの決定的な違い

夢を描くだけでは、モチベーションは続かない

 目標を達成するためには、「達成した自分の姿」をできるだけ具体的に、エピソード的に想像することが効果的だとお話ししました。

 ただし、それは達成の見込みが比較的高い目標に限られます。

 たとえば、「目の前の課題を終わらせる」といった目標に対しては、このエピソード的未来思考が効果的です。

 ですが、達成するのが難しいと思っている目標に対しては、ただ未来をバラ色に思い描くだけでは、目標の達成にはつながりません。

 たとえば、「プロのサッカー選手になる」という目標を考えてみましょう。

 あるサイトによると、2020年度のサッカーの競技人口は約75万人。Jリーグ1~3部の選手に海外でプレーする選手を加えても、プロは約1,700人ほどです。

 つまり、プロになれるのは約0.23%、およそ435人に1人という狭き門です。

 このように達成が極めて困難な目標に対して、「ヒーローインタビューを受けている姿」や「華麗なゴールを決めている姿」をいくら具体的に思い描いても、それを達成できる可能性はごくわずかです。

 確かに、バラ色の未来を想像している時は、良い気分になれることでしょう。

 しかし、目指す理想の状態と現実とのギャップが大きすぎると、漠然と夢を思い描くだけではモチベーションが続きにくくなります。

 また、ただ夢を見るだけで、それを叶えるための具体的な行動につながらなければ、長期的には、目標を達成できなかった失望感に苛まれることになります。

理想と現実を同時に思い描く

 そこで、達成することが困難な目標を設定するうえで重要になってくるのが、「心的対比(メンタル・コントラスト)」です。

 心的対比とは、「望ましい最終的な目標の状態(理想)を思い描き」、「その目標達成を阻む現実的な障害を考える」ことです。

 つまり、未来のビジョンを描きながら、現在を現実的に評価して対比することです。

 次の図をご覧ください。

 たとえば、「志望大学に合格する」という目標に対して、心的対比を行うことを考えてみましょう。

「有言実行の人」と「口だけで行動できない人」を分ける1つの決定的な考え方の違い

 まず、合格掲示板の前で自分の受験番号を見つけて、友達と一緒に喜んでいる姿だったり、憧れの大学のキャンパスを歩いている自分の姿だったりを想像します。

 一方で目標達成を阻む要因、たとえば、眠さに負けて勉強できない姿だったり、大好きなゲームの誘惑に負けて、気づいたらゲームに没頭している自分の姿も思い描きます。

 望ましい最終的な目標の状態(理想)を思い描くことが良いことはすでにお話しした通りですが、達成が困難な目標に対しては、それだけでは十分ではありません。

 同時に、目標遂行や目標達成を妨害している要因を思い浮かべることが重要になってくると考えられています。

 このような、達成までに時間がかかり、途中で挫折しやすい長期的で困難な目標に対して、心的対比が効果的です。

※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。