プレゼン資料は、「読ませるもの」ではありません。“込み入った話”を言葉だけで伝えようとすると、どうしてもまどろっこしい表現になり、非常にわかりにくい説明になりがちです。そんな時に必要なのは、伝えるべき内容の「本質」を、直観的に理解できるように「図解化」する技術。プレゼン資料は「見せるもの」なのです。そこで、累計40万部を突破した『社内プレゼンの資料作成術』シリーズの著者で、ソフトバンク在籍時には孫正義社長に直接プレゼンをして「一発OK」を次々と勝ち取った実績を持つ前田鎌利さんと堀口友恵さんに、プレゼン資料を「図解化」する技術を伝授していただきます(本連載は『プレゼン資料の図解化大全』から抜粋・編集してお届けします)。

【なるほど!】複雑なことを一発で伝える「図解」のコツ写真はイメージです Photo: Adobe Stock

相手の「知識レベル」に合わせる

【図-1】は、ある会社の経理部が、社員にインボイス制度について説明するためにつくったスライドです。

 説明のポイントは、仕入先がインボイス請求書を提出しない場合には、「仕入税額控除」をすることができないため、自社の消費税納税額が高くなることに注意を促すことです。

 ところが、【図-1】のスライドはシンプルなので、一見わかりやすそうな印象を与えますが、税金に関する知識をもたない一般の会社員にとっては、「インボイス請求書がないと、具体的にどうなるのか?」をイメージすることはできないでしょう。

【なるほど!】複雑なことを一発で伝える「図解」のコツ

 なぜなら、このスライドは、プレゼンの相手が「消費税」や「仕入税額控除」について知識があることを前提につくられているからです。

 経理部員など専門知識をもつ人を対象とするプレゼンならば、このスライドでも趣旨が伝わるかもしれませんが、「消費税」に関する基本的な知識をもたない一般の会社員には、チンプンカンプンなプレゼンになる可能性が高いのです。

 プレゼン資料をつくるときに重要なのは、相手に合わせること。このケースで言えば、一般社員の「知識レベル」に合わせて、スライドに盛り込む情報を増やしていく必要があるということ。スライドは「シンプルであればいい」というわけではないのです。

やや複雑でも、「伝わる」ことに意味がある

 では、どのように改善すればいいのでしょうか?

 1枚のスライドで表現するならば、【図-2】のようなスライドにするといいでしょう。

【なるほど!】複雑なことを一発で伝える「図解」のコツ

「仕入税額控除」とは、次の計算式のように、売上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を差し引いて、納税額を算出することですが、これを抽象的に伝えようとすると難しくなります。

【なるほど!】複雑なことを一発で伝える「図解」のコツ

 そこで、【図-2】のように、実際の取引とお金の流れを具体的に図解したスライドにすることで、「仕入税額控除」についてわかりやすく説明できると考えたのです。

 やや複雑なスライドになっていますが、本来、こうした込み入ったことを視覚的に表現することで、わかりやすく伝えるのが図解化する最大のメリットです。

 このスライドを見せながら、口頭でひとつずつ丁寧に説明すれば、消費税に関する詳しい知識がない人にも、「仕入税額控除」について理解してもらえるはずです。

抽象的な概念を「図解」で説明する

 説明の流れは、次のようなイメージです。

 まず、左の図解を示しながら、次のポイントを説明します。

 メーカーが販売先から1万1000円の対価を受け取ったら1000円の消費税の納税義務が発生する

 部品を納入してもらった仕入先から、5500円(消費税分500円)のインボイス請求書をもらえれば、その消費税500円を控除することができる

 つまり、メーカーの消費税額は、「1000円-500円=500円」となる。これが「仕入税額控除」の仕組みである。

 次に、右の図解を示しながら、次のポイントを説明します。

 ところが、仕入先(免税事業者)がインボイス請求書ではなく、適格外の請求書を提出した場合には、「仕入税額控除」が適用されない

 したがって、メーカーの消費税額は「1000円」となる。

 みなさんも、【図-2】を見ながら、上記の説明文を読めば、「仕入税額控除」についてしっかりと理解していただけたのではないでしょうか? 実際には、口頭で説明する順番に、該当箇所をアニメーションで見せていくと、さらに理解しやすいプレゼンになるでしょう。

スライドを増やしてもかまわない

 ただし、【図-2】は、あくまで1枚のスライドで説明する場合のイメージです。

 もっとわかりやすいプレゼンをするためには、【図-3】のように、複数枚のスライドに分ける必要があるでしょう。

【なるほど!】複雑なことを一発で伝える「図解」のコツ

 まず、①のスライドで計算式を見せながら、「仕入税額控除」の仕組みを抽象的に説明したうえで、②のスライドで、具体的な取引とお金の流れを見比べながら、「仕入税額控除」の計算を実演してみせます。この2枚のスライドで、「仕入税額控除」については理解してもらえるはずです。

 続いて、③のスライドで、インボイス制度の導入によって、インボイス請求書がない場合には、「仕入税額控除」ができなくなったことを明示。その上で、④のスライドで、「インボイスあり=仕入税額控除あり→納税額500円」と「適格外の請求書=仕入税額控除なし→納税額1000円」の違いを対比させることで、理解を定着させるという構成になっています。

 このようなスライドを用意すれば、相手にわかりやすく伝えることができるはずです。

(本稿は、『プレゼン資料の図解化大全』より一部を抜粋・編集したものです)

前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年生まれ。ソフトバンクモバイルなどで17年にわたり移動体通信事業に従事。ソフトバンクアカデミア第一期生に選考され、プレゼンテーションにおいて第一位を獲得する。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当。2013年12月にソフトバンクを退社、株式会社固を設立して、プレゼンテーションクリエイターとして独立。2000社を超える企業で、プレゼンテーション研修やコンサルティングを実施。ビジネス・プレゼンの第一人者として活躍中。著書に『【完全版】社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』(すべてダイヤモンド社)など。

堀口友恵(ほりぐち・ともえ)
埼玉県秩父市生まれ。立命館大学産業社会学部卒業後、ソフトバンクへ入社。技術企画、営業推進、新規事業展開などを担当する中で、プレゼンの経験と実績を積む。2017年に株式会社固へ転職し、スライドデザイナーとしての活動を始める。企業向け研修・ワークショップの担当や大学非常勤講師のほか、大手企業などのプレゼンのスライドデザインを担当し、のべ400件以上の資料作成やブラッシュアップを手がける。前田鎌利著の『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』のコンテンツやスライドの制作にも深く関わった。ITエンジニア本大賞2020プレゼン大会にて、ビジネス書部門大賞・審査員特別賞を受賞。小学生向けのオンライン講座「こどもプレゼン教室」を運営し、子どもたちのプレゼンスキルアップの支援も行っている。