安倍首相は6月5日、成長戦略スピーチを行い、「成長戦略の三本柱がそろい、その目指すところについて、今回の成長戦略では、『KPI』すなわち『達成すべき指標』を、年限も定めて、明確にした」と主張した。ところが、市場の反応は冷淡で、日経平均株価は大幅に反落した。日経新聞によると、成長戦略第3弾の内容が「事前報道の範囲内にとどまり、新味にかける」との見方から売りが膨らんだ、という。そこで首相スピーチを全文読んでみることにした。
三本柱に対してKPIが5項目
内容的にも整合していない
首相は、「女性の活躍」、「世界で勝つ」、そして「民間活力の爆発」を成長戦略の三本柱として取り上げた。私見では全く異論はない。方向感覚としては正しいと考える。
次に首相はKPIとして、まず次の5項目をあげた。
・3年間で、民間投資70兆円を回復する
・2020年に、インフラ輸出を、30兆円に拡大
・2020年に、外国企業の対日直接投資残高を、2倍の35兆円に拡大
・2020年に、農林水産物・食品の輸出額を1兆円に
・10年間で、世界大学ランキングトップ100に10校ランクイン
そして、最も重要なKPIとして一人当たりの国民総所得を取り上げ、10年後に現在の水準から150万円以上増やしたいと結んだ。この結びについては全く異論はない。そして、上記5項目のKPIも、それぞれに見れば決しておかしいものではない。例えば、農業分野の輸出額1兆円については、2年前に当コラムでも言及したところである。
一読して奇異に感じたのは、三本柱とKPIが整合していないという点である。民間企業であれば、経営戦略の三本柱を定めたのであれば、KPIもその三本柱ごとに定めるのが普通の感覚ではないか。これが、おそらく市場が冷淡だった本当の原因ではないか。古今東西、政策は整合的であることこそが、命なのである。