安倍政権登場後、上昇を続けていた株価が下落し、債券利回りが上昇した。急激に進行していた円安にもストップがかかった。「アベノミクス」の先行きに対する悲観的な見方が台頭し始めている。
だが、そもそもアベノミクスの「第一の矢(金融緩和)」「第二の矢(公共事業)」には、将来の借金増や過度のインフレなど、大きなリスクがあると指摘されていた(第51回・P.6を参照のこと)。アベノミクスの狂騒で忘れがちになっていたが、冷静に考えれば、市場の乱高下は想定の範囲内ではないだろうか。
また、これらの政策はアベノミクス「第三の矢(成長戦略)」が策定されて軌道に乗るまでの「時間稼ぎ」に過ぎなかったはずである。アベノミクスの成否は、「時間稼ぎ」をしている間に、いかに成長戦略へスムースに移行し、財政健全化と経済成長を実現できるかで決まるはずだ。
第一・第二の矢を推進した
強力な「安倍人事」
以前論じたように、大胆な金融緩和と公共事業拡大は、「安倍人事」によって「公共事業推進派」「リフレ派」による財務省・日銀包囲網を完成すると同時に、「社会保障と税の一体改革」三党合意を推進した「財政再建派」を意思決定から外すことで成功した(第51回・P.2を参照のこと)。
まず、麻生太郎元首相を副総理・財務相・金融相に起用し、首相官邸を強力な布陣で固めて、財務省・日銀を抑え込んだ。麻生副総理は、浜田宏一エール大教授(内閣参与)、元財務官僚の本田悦朗静岡県立大教授(内閣参与)、経済財政諮問会議には伊藤元重東大大学院教授(経済財政諮問会議)など「リフレ派」と呼ばれる経済学者の首相官邸への起用を主導した。リフレ派は「日銀包囲網」を形成し、大胆な金融緩和を実現させた。そして、麻生副総理は「異次元緩和」を断行した黒田東彦氏の日銀総裁起用にも強い影響力を発揮した。