6月号の文藝春秋で半藤一利さんと船橋洋一さんが「日本型リーダーはなぜ敗れるのか」というテーマで対談をされている。原発事故と太平洋戦争におけるリーダーを対比して論じられているのだが、その中で興味深い二人のリーダーがあがっていた。
それは福島第一原発の吉田昌郎所長と第二原発の増田尚宏所長だ。
半藤さんは、「今回の(原発)事故では、現場のリーダーには恵まれたといえるのではないでしょうか」と言い、この二人をあげる。それに対して船橋さんが「まことに対照的な二人です。増田さんは非情のリーダーで、吉田さんは情のリーダーでした」と評する。
具体的に言うと、吉田所長は、①西郷隆盛のようで部下たちは彼の姿を見て仕事をしている、②協力企業の家族持ちの人たちを一斉に帰宅させる、③毎日、5時にみんなで会合をし、必ず部下を褒める、④親分肌である、⑤部下が心服している。
増田所長は、①チーム力に優れている、②危機管理に優れている、③危機に陥った第一原発から電源車を回してほしいという要請を拒否した(あくまで第二原発を守ることに非情に徹した?)、④津波が来た瞬間に第二原発の門を全部閉め、従業員を逃がさないようにした。
船橋さんは、二人を評して「第一は吉田がいたからあの程度で済み、第二は増田だったからあそこで助かった」という。
李広と程不識という二人の将軍
この対談を読んで、司馬遷の史記にある李広と程不識の両将軍のことを思い浮かべた。共に漢の武帝の時代に辺境の守備についていた名将である。
二人は対照的な指揮振りだったと司馬遷はいう。
李広は、①隊伍、陣形ばらばら、②休憩地では兵も馬も自由、③夜の警戒も緩い、④記録、帳簿も簡略、⑤斥候だけは遠くまで出す。
程不識は、①隊伍、陣形一糸乱れず、②夜も厳しい警戒、③記録、帳簿は厳格、④兵は息つくひまなし、⑤敵の襲撃を受けたことなし。