東日本大震災後の復旧作業など、現場の作業員の心をひとつにして、同じ方向に向かって進んでいく――そういう「現場力」を高めるリーダーシップが上手な日本人は多い。しかし、トップがすべき意思決定には痛みや犠牲が伴い、それに基づいて組織を動かしていかなければならない。先の現場力とは違った思考と行動力が求められる。
日本人が苦手な真のリーダーシップ
日本の組織の強さは、現場力にあると言われる。
会社でも役所でも、共同体型の組織は極めて明確に共有されたゴールを設定されると、持ち場ごとに判断してすごいスピードで突っ走る。
東日本大震災後の復旧がよい例だ。地震で寸断された道路を直す、壊れた生産ラインを再稼働させる、といったときの復旧スピードは見事なものだった。
全員で共通されたゴールに向かって、段取りを進めて作業をスピーディにこなしていく。これがまさに現場力である。だからこそ、部品供給などのサプライチェーンも早い段階から回復した。
実はこの復旧を決めるプロセスでは、大きな意思決定はほとんど必要ない。みんなが共通の目標を持ち、復旧によって得られる利益も共有している。壊れた工場の建て直しに反対する人はいないからだ。
このように、右へ行くか左へ行くか、という大きな判断が必要ないときは現場力で突き進める。しかし問題は、共同体の中で不調和を起こしそうな課題が生じた場合だ。
「復旧」から「復興」へとステージが移ってくると、この手の課題に次から次へと直面することになる。たとえば、住宅地の高台移転をどうするか、瓦礫をどう処理するのか、原発をなくすのかなくさないのか。共同体内で大きな意見対立がある問題に直面すると、とたんに立ち止まってしまう。
現場責任者が「みんなで力を合わせて乗り越えよう」と、歯を食いしばって頑張る、そういうリーダーシップもあるのだが、本当のリーダーシップが必要なのは、そういう場面ではない。甲論乙駁で議論が分かれて、深刻な利害対立が生じているときには、「東に行くのか、西に行くのか」「やるのか、やらないのか」をトップダウンで決めなくては物事は前に進まず、状況はますます悪化していく。