仕事も勉強も、やる気はあるのに先延ばししてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』だ。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。この記事では、特別に本書から一部を抜粋し、モチベーションにまつわる心理学の最新知見を紹介します。

パフォーマンスが低い人は、結果が悪くてもひたすら頑張る。では、パフォーマンスが高い人は何をしている?Photo: Adobe Stock

前回までのあらすじ

 実行意図と呼ばれる心理的テクニックを使うことで、単に目標を決めるよりも、その目標が到達されやすいことが心理学のさまざまな研究で示されています。

 実行意図とは、「(if)もし◯◯したら、(then)△△を実行しよう」のように「if-then」形式で計画を立てる方法です。

>>前回:「やる気はあるのに締め切りを守れない人」に共通する甘い考え

「if-then」形式の計画を立てる――実行意図の実験

 実行意図の効果を調べた実験を紹介しましょう。

 ここでは、107名のテニス選手が参加者となりました。

 彼らは、ドイツのさまざまなリーグのトーナメントに定期的に参加しており、競技力向上を目指してテニスに取り組んでいました。

 まず参加者は、①目標なしグループ②目標意図グループ③実行意図グループの3つのいずれかに割り当てられました。

 3つのグループの違いを次の表にまとめました。

パフォーマンスが低い人は、結果が悪くてもひたすら頑張る。では、パフォーマンスが高い人は何をしている?心理的作戦の異なる3つのグループ

②目標意図グループ

 ②目標意図グループの参加者は、「試合に勝つために、一球一球に集中して、一生懸命プレーする」という目標をもつように指示されました。

 そして、試合前には、心の中で何度もこの目標を唱えるようにいわれました。

③実行意図グループ

 ③実行意図グループの参加者は、②目標意図グループが行ったことに加えて、試合中に起こり得る、パフォーマンスに最も悪い影響を与えるネガティブな内的状態を特定するように求められました。

 たとえば「イライラする」、「緊張して集中できなくなる」、「試合を放棄したい気分になる」、「疲労感が生じる」などです。

 続いて、自身が特定したネガティブな内的状態をコントロールするのに適した行動を考えるように指示されました。

 たとえば「緊張していると思ったら、深呼吸する」、「プレー中にイライラしたら、自分自身を落ち着けて、自分は勝てると唱える」などです。

 このように、自分のネガティブな「内的状態(if要素)」を特定し、それらを適切な「目標指向的行動(then要素)」に結びつけるという「if-then」形式で計画を作成しました。

 さらに、試合前には心の中で何度もこれを唱えるようにいわれました。

実行意図で目標達成率が高まる

 では、結果を見ていきましょう。次のグラフをご覧ください。

パフォーマンスが低い人は、結果が悪くてもひたすら頑張る。では、パフォーマンスが高い人は何をしている?

 縦軸は、パフォーマンスを示しています。

 試合中のパフォーマンスのよしあしは、選手のことを熟知しているトレーナーあるいはチームメイトが、前回の試合と比べてどうなのかを評価しました。

 この数値は、107名のテニス選手のパフォーマンス得点の平均値が「0」となるように換算されたものになっています。

 つまり、この値が正の値をとっていれば、平均よりもパフォーマンスが高いことを示し、さらに数値が大きくなればなるほどパフォーマンスが高いことを意味します。

 逆にこの値が負の値をとっていれば、平均よりもパフォーマンスが低いことを示し、さらに数値が低くなればなるほどパフォーマンスが低いことを意味します。

 グラフが示す通り、実行意図を行った選手は、目標が提示されなかった選手や目標意図のみを行った選手と比べて、以前の試合よりも高いパフォーマンスを示すことが明らかになりました。

「if-then」計画を形成することで、目標達成率が高まったのです。

 このように、実行意図の形成は、ネガティブな出来事を経験した時にそれをコントロールする行動を促進させることで、望ましい結果の実現につながるのです。

参考文献:Achtziger, A., Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2008). Implementation intentions and shielding goal striving from unwanted thoughts and feelings. Personality and Social Psychology Bulletin, 34(3), 381-393.

※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。