メディア情報を一気に絞って“飢餓感”を生み出す

渡邊 振り返ってみたら、当時は本当に何をしてもいい自由な会社でした。新卒のプロパー社員は少ないし、あとはいろんな会社からの出向者や転職者。ディズニーに関しては、アメリカでディズニーランドに何度も行っていた私が、社内では一番詳しいくらいでした。それで、アメリカ人の幹部に、マーケティング担当を命じられたんです。

 最終的にはアメリカの承認が取れないと何もできないんですが、逆に日本側の承認を取って、アメリカからもOKをもらえたら、何だってできた。実際、好きにやっていいよ、と言われていました。雰囲気は本当に自由でしたね。

本田 オリエンタルランドにおられた10年間というのは、まさに開業と成長に重なるものすごい10年ですよね。立ち上げというのは、もう二度と経験できない。本当に貴重な経験をされています。

渡邊 面白かったのは、自由なんですが、アメリカというのは、縛るところは、きっちり縛るんですね。だから、アメリカの言うままにやったところもあるわけです。結果的には、それも良かったんじゃないかと思います。

本田 ディズニーはブランド管理も厳しいですものね。

渡邊 例えば、「TDL」と言うとアメリカ人の上司に叱られましたね。ディズニーという言葉を聞いて、初めてふわっとした、あのイメージが起こる。TDLなんて言うな、と。

 私が印象深く覚えているのは、アルバイト採用の広告を地下鉄に出そうとしたときです。最寄りの路線は東西線ですから当然、東西線の車内に出そうとしたら、やっぱりアメリカ人に叱られたんです。来場者も乗る電車内に、夢の国で働く人の募集を出すとは何事だ、と。
 それで、仕方なしに遠いエリアの電車内に出したんですが、その列車は路線に遊園地を持っていましてね。これが揉めまして。私も謝りに行ったりしました。ただ、広告を出しただけなんです、と。このときの印象が強かったようで、責任者の方とは、今でもお付き合いがあります。

本田 マスコミ対応も、ユニークですよね。

渡邊 例えば、5周年とか、大規模な対応をしなければいけないときは、テレビもラジオも雑誌も、一報道機関に一人の担当者がついて案内していましたね。もちろん、そんな数の広報部員はいませんから、社内からにわか広報部員が作り上げられるんです。

 それで、すべての報道機関に担当者がついて、全部案内する。マスコミが「これをやりたい」と言えば、その場で担当者がサポートする。できるかどうかがわからなければ、すぐに責任者に連絡して確認が取れる体制にしておく。

本田 一社に一人つくというのは、ファンづくりという視点もあるわけですよね。とにかく、ちゃんと理解して帰ってもらおう、と。そこまでされたら、東京ディズニーランドのマスコミ対応はすごい、という口コミ効果も出てくるでしょうし。

渡邊 結局、ブランド管理のためなんですよ。例えば、新聞社や出版社に「原稿のゲラをチェックさせてほしい」と言っても、なかなかさせてくれるものではない。特に当時はそうでした。でも、私たちとしては、ちゃんとしたものを世に送り出したいわけです。

 であるならば、記事を作るところから張り付いてしまえばいい、という発想なんですね。一人がメディアについて「こういうシーンがいいですよ」「こっち側から撮ったほうがよく見えますよ」とやれば、メディアにとってもいいものが作れるし、私たちもうれしい。そういう仕組みを作ったんです。

 プレゼントもしましたよ。その人を徹底的にファンにするために定期的にいろんなものを送って。恋愛と同じです。高めていくんです。だから、メディアの人は部署が移動してディズニー担当を外れると、寂しそうでしたね(笑)。

本田 そうでしょうね。

渡邊 もっというと、逆に情報を一気に出さなくなったりすることもしましたね。恋愛と同じで、情報が急に来なくなると、やきもきするんですよ。情報を一気に減らして、飢餓感を作る。
 そうなったときに、再び情報を出すと、みんなものすごい勢いで食らいついてくれるわけです。最近は少しこういうのが、減っていますけどね。

 アメリカ人のマーケティング責任者はいつも言っていました。
「マーケティングというのは、恋愛と同じだ」、と。

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