2024年6月に総務省から『デジタル広告分野における情報開示の在り方に関するガイドライン』が発表されましたが、その内容は「広告主のための」となっており、消費者被害が起こるのは、広告主が変な広告を出したり、掲載先を確認しなかったりするからだ、という論調です。しかし、広告主がいくら気を付けても、海外から日本語の詐欺広告が発注されれば防ぎようがありません。プラットフォーム側の責任、特にグローバルなコンテンツ管理の問題に踏み込まない限り、根本的な解決には至らないのです。

AIは広告業界の救世主か、
それとも破壊者か

――プラットフォーム側にも様々な課題があるというご指摘は、腑に落ちます。彼らはメディアというよりはテクノロジー企業であり、その事業構造の違いが今のような状況を生んでいるのかもしれません。

 そうですね。彼らはメディア倫理から出発したのではなく、「いかにコストをかけずに収益を上げるか」という発想から始まっていますから。そうした価値観が、今度は生成AIを使った広告モデルに流れ込もうとしています。

 たとえば、グーグルの検索結果で最上部に表示されるAIによる要約。これは非常に便利ですが、その要約に使われているデータの多くは、さまざまなメディアから許諾なく集められたコンテンツが元となっています。いずれ、このAI要約に広告がつくようになれば、グーグルはメディアと関係なく自社のコンテンツ(AI要約)内で完結する、利益率が非常に高い広告ビジネスを確立するでしょう。これは、プラットフォームが単なる情報の交通整理役から、自らコンテンツを生成する「コンテンツメディア」へと舵を切っていることを意味します。

――AIの進化は、広告の未来にどのような影響を与えるとお考えですか。期待と不安、両方の側面があるように感じます。

 まさにその通りです。私には期待と不安が入り混じった状況に感じられます。

 期待の側面としては、AIが進化することで、現在課題になっているような、ユーザーに不満を抱かせる広告はなくなるかもしれないということです。AIは人間の「嫌だ」という感情も読み取りますから、広告の表示方法やタイミングが最適化され、広告環境全体が「きれいになる」可能性があります。そうなれば、私たちのような品質を重視するメディアの広告価値が、相対的に上がってくるのではないかという期待感があります。