肝臓は母の尚子さんが提供した。2人は「裕弥ちゃんの手術があって、今の生活がある。勇気ある決断に感謝したい」と話す。

「決断」の重みを背負いながら
今も医療の現場に立ち続けていた

〈決断〉。

 裕弥ちゃんの手術から30年となった2019年11月、島根大医学部にそう刻まれた記念碑が設置された。永末さんは除幕式でこう述べた。

「小さい地方の医科大から肝移植を世界に広められ、感無量だ」

2019年に島根大学医学部に設立された記念碑〈読売新聞提供〉 同書より転載2019年に島根大学医学部に設立された記念碑〈読売新聞提供〉 同書より転載

 福岡市内にある「拾六町病院」の院長に就く今も現場にこだわり、外来の診察を毎日こなす。病院は終末期医療に力を入れており、高齢患者を看取ることも多い。

 毎年8月、裕弥ちゃんの命日が近づくと、あの手術を思い出す。

「重病の赤ちゃんでも終末期のお年寄りでも、患者の命は同じように重い。目の前の患者から逃げず、常にベストを尽くす」。信念は今も揺るがない。

看護師と談笑する永末さん(福岡市西区の拾六町病院で)〈読売新聞提供〉 同書より転載看護師と談笑する永末さん(福岡市西区の拾六町病院で)〈読売新聞提供〉 同書より転載

[2023年8月13日掲載/小泉朋子]

書影『「まさか」の人生』(読売新聞社会部「あれから」取材班、新潮社)『「まさか」の人生』(読売新聞社会部「あれから」取材班、新潮社)