
自動車部品大手のデンソーが、農業ビジネスに本腰を入れている。7月にはオランダの種苗メーカーを買収した。買収額は非公開だが、ダイヤモンド編集部の取材によると5億ドル(約737億円)超に上り、日系企業の農業投資として過去最大規模とみられる。本稿では、農業ビジネスを新規事業の柱にして、「脱・車載一本足」を目指すデンソーの多角化戦略に迫った。同社が農業のゲームチェンジャーになるため開発した画期的な栽培方法とその課題とは。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
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トマトの種苗メーカー世界大手の買収をテコに
農業含む新事業で売上高3000億円を目指す
自動車部品大手のデンソーが農業ビジネスへの進出を検討していた2010年代半ば、同社の視察を受け入れた農家は「農業に参入した他の大企業と同様、数年後にはフェードアウトするのではないか」と疑いの目を向けていた。
それから約10年、デンソーは農家からの疑念を晴らすどころか、世界の農業ビジネスの勢力図を塗り替えんばかりの本気度を見せている。同社は、農業用ハウスを使う施設園芸で世界をリードするオランダ企業2社を買収し、事業規模を拡大しようとしているのだ。
25年7月に買収したオランダ企業、アクシア・ベジタブル・シーズは、施設栽培用トマトの種苗メーカーとして世界で3本の指に入る規模だ。その買収額は、「デンソーとしては非公表」(上席執行幹部〈常務〉フードバリューチェーン事業推進部担当の向井康氏)だが、このM&Aに関わった業界関係者によれば、「5億ドル(約735億円)超」に上るという。
デンソーは農業ビジネスを含む三つの新事業(農業、ファクトリーオートメーション〈FA〉、エネルギー)の合計の売上高を30年に3000億円とし、同3事業が全社売上高に占める構成比を23年の2%から35年に20%へ高めることを目標にする。
この目標を達成できれば、農業ビジネスに参入した日系企業の中では上々の出来といえる。だが、会社全体で7兆円を売り上げるデンソーにとっては、決して「野心的過ぎる目標」ではない。同社はクルマの電動化を強みとするが、実績があるのはハイブリッド車を動かすモーターやインバーターであり、バッテリーEV(電気自動車)では、米国のテスラや中国のBYDなどに先行を許している。もし、米中のEVメーカーが自動車市場を席巻すれば、トヨタ自動車をはじめとした日系自動車メーカーへの依存度が高いデンソーは窮地に陥りかねない。農業ビジネスなどで事業の多角化を進めるためには、3000億円規模の新規事業の創出は、是が非でも実現したい経営目標なのだ。
向井氏は「M&Aや業務提携によって、農業事業を拡大させるための基盤が整った。今後は、30年までに農業を含む新価値創造領域で売上高3000億円の実現へ、事業を成長させるフェーズ、つまり勝負どころだ」と話す。
次ページでは、デンソーが、日系企業による農業ビジネスへの投資としては過去最高額とみられるM&Aに踏み切った真の狙いと勝算に迫る。同社が農業で飛躍するために不可欠と考える「三種の神器」とは何か。また、農業のゲームチェンジャーになるため開発した画期的な栽培方法の強みと課題も明らかにする。