
昨今の住宅ローンでは、「50年ローン」が増えてきている。しかし、巷間では「そんなに長期間借りて大丈夫なの?」とか、「死ぬまで借金を背負うのか」とか、否定的な反応が多い。ところが、それは大きな誤解。50年ローンを否定していると、今後の住宅購入戦略の幅が狭まるばかりか、インフレ時代に負け組となるリスクも。50年ローンのメリットを解説する。(鈴木豪、ダイヤモンド・ザイ編集部)
賢い人ほど住宅ローンは
50年ローンを選ぶ!
「50年ローン」については、その長さから「そんなに長い間借りて大丈夫なの?」とか、「死ぬまで返済に追われるの?」とか、否定的な反応が多い。少し金融の知識があると「期間が長いほど金利の負担が重たくなり、総返済額も増えるから損だ」と考えるのが一般的だ。
しかし、この50年ローンは、従来の35年ローンとは全く異なる視点を持つことで、むしろ賢い選択肢となる可能性がある。よくある疑問や不安に答えながら、そのメリットを解説する。
【疑問1】金利が上乗せされるし、
総返済額が増えるから損ではないか?
同じ銀行で同額を借りる場合、シミュレーションをすれば50年ローンはポピュラーな35年ローンよりも総返済額、つまり利息が増えること明白だ。しかし、重要なのは、この「総返済額」だけを見て判断しないことだ。
見てほしいのはシミュレーションの「毎月の返済額」だ。50年ローンの方が少ないことに気づくだろう。実は50年ローンの最大のメリットは、「月々の返済額を減らせること」だ。例えば、東京23区の新築マンションの平均価格は1億円超なので、1億円を借りるとしよう。金利0.7%で35年ローンなら月26.9万円の返済だが、50年ローンなら月19.8万円で済むといった具合だ。
経済学では、「今のお金」と「将来のお金」の価値は違うと考えられている。例えば今100万円手に入れるのと、20年後に100万円を手に入れるのでは、前者の方が価値が高い。なぜなら、その100万円を今持っていれば、投資や運用に回して増やすことができるからだ。
差額をただ使ってしまうのではなく、資産形成に回すことを前提に考えてみよう。もし、この差額を株式のインデックスファンドや、世界中の株や債券に分散投資するバランス型ファンドなどの投資信託で、数十年という長期で運用できたとしたらどうなるだろうか。先進国では技術革新が、新興国では豊かさを求めるような資本主義経済が続く限り、年率2~8%、平均で年率4%以上のリターン*は十分に望めるだろう。仮に住宅ローンの金利が1%上昇しても、まだ返済を遅らせるほうがおトクだ。
世界最低レベルの低金利で借りられる日本の住宅ローンよりも、投資で得られるリターンの方が大きくなる可能性が高い。つまり、返済期間が長くなることで増えた総返済額よりも、投資の運用益が上回ることになり、結果的に手元に残るお金は多くなるのだ。
金銭的な損得だけではない。例えば20代で100万円もらって旅行やデートの資金にして、経験を積んだり結婚相手と出会ったりするのと、体力も気力も衰えた70代で100万円もらうのではどちらが有意義か、と比較すれば早いうちに自由になるお金を手にすることの価値の大きさがわかるだろう。
*金融庁の公開資料『つみたてNISAについて』の「国内外の株式・債券に分散投資した場合の収益率の分布」「国内・先進国・新興国の株・ 債券に1/6ずつ投資」。