スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「重要な少数」を意識せよ
――本書の核となる考え方の一つに、「自分にとって重要なこと」を明確にするという点があります。現代社会では雑務に追われがちですが、この本は、質の高い仕事と充実した人生を送るために、重要なタスクを見極めることの重要性を説いています。
栗木さつき氏(以下、栗木):それについては「バイタル・フューの法則」が引用されていましたね。
いわく、質の高い仕事をする鍵は「些末な多数(トリビアル・メニー)」と「ごくわずかな重要なもの(バイタル・フュー)」を区別することにある。(中略)
「バイタル・フュー」の地位を獲得できるタスクは何だろう? タスクの優先順位は必ずしもぱっと決められるものではないので、じっくりと考えてみてほしい。 ――『一点集中術』より
――書籍編集者としては、いくら日々の雑務が多くても、企画と原稿整理をしない限り本は出ないので、その作業は「バイタルフュー」として守らなくてはいけないと思っています。
栗木:たしかに、会社員の方だと、毎日次々といろんな仕事が発生しますよね。そうすると「バイタル・フュー」を意識しないと、すごく忙しくても成果はゼロ、ということになってしまいそうです。
――いつも忙しいのに仕事はできないという人は、優先順位の概念が欠けているのだと思います。翻訳者さんにとっては「バイタル・フュー」とは何にあたるのでしょうか。
栗木:翻訳者にとって「翻訳」とは、訳文を書くことと同時に調べ物を含んだ一連のプロセスです。人名の発音や引用文の出典確認などの調べ物は欠かせませんが、時間もかかり、集中を途切れさせやすい難所でもあります。つまり調べ物は翻訳の一部でありながら、翻訳者にとっては、集中を保つうえでの大きな壁になるんです。
優先順位がなければ、時間は過ぎていくだけ
――では、日々の生活や仕事のなかで「これこそ重要な少数だ」と考えていることはありますか。
栗木:いくつかありますが、まずは「翻訳」ですよね。毎日どれだけ訳すかという自分なりのノルマを決めているので、これを毎日の重要な目標の一つと考えています。
それから、「心と体のバランスを取る」こと。私の仕事は座りっぱなしなので、放っておくととても不健康な生活になってしまいます。ですから、運動をするのも仕事の一部、ルーティンの一つだと考えていて、毎日できるだけジョギングやウォーキングに行く時間をとるように努めています。
そして三つ目は、この本で何度も繰り返されている「人間関係」です。幸せになるには対人関係が大事だと説かれています。いくら忙しくても家族との時間をおろそかにしてはいけないなとつねに思っています。
――「バイタル・フュー」、つまり「重要な少数」という表現が示すように、一つに絞るというよりは、人生のバランスを構成するいくつかの要素を指しているのですね。
栗木:そうですね。優先順位を持っていなければ、時間がいくらあっても足りません。この本を訳すことで、日々のバランスの取り方を教えてもらったような気がします。
(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)