スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「気づけば10年、何も変わっていない人」の特徴・ワースト1Photo: Adobe Stock

毎日に「空白の時間」をつくる

栗木さつき氏(以下、栗木):日々のタスク管理において、本書では「空白タイム」という時間を設ける重要性が説かれていますね。この「空白タイム」について、著者のデボラさんは以下のように説明しています。

 平日のスケジュールを作成する際には、かならず毎日2回、アポや打ち合わせをいれない30分の時間を設け、その時間に類似タスクをまとめておこなったり、予期せぬできごとに対処したりしよう。
 私はこの時間を「空白タイム」と呼んでいる。(中略)
 毎日、あらかじめ空白タイムをスケジュールに組み込んでおけば、その時間を活用し、長期的なプロジェクトの達成に向けて集中して作業に取り組むこともできる。
 だからこそ、空白タイムには、現実にアポが入っていると考えるようにしよう。 ――『一点集中術』より

――著者はこれをとても重要だと言っていますよね。空白タイムがないと毎日目の前のことに追われるだけになってしまうって。栗木さんは空白タイムをスケジュールに組み込むことはできていますか。

栗木:翻訳の仕事は会社員のようにいろんな雑務が降ってくるという感じではないのですが、それでも、この空白タイムが必要だということは、本書を通じて強く感じました。そうしないと、毎日に時間のバッファがなくて、締め切りに追われるだけになってしまうんです。三浦さん(編集)はどうですか。

――残念ながらできていないですね……。どうしても日々のタスクに追われて、気づけば10年も同じような場所にいる気もします。「毎日、ただ時間に追われているだけ」というのは、いつまでも前向きな変化ができない人の典型的な特徴と言えるのかもしれません。

忙しいときこそ「集中」できる

栗木:そういえば、オンライン書店で『一点集中術』のレビューを書いてくださったワーキングマザーの方がいたのですが、「子育て、家事、仕事で忙しく、空白タイムの重要性はわかっていても実践が難しい」と書かれていました。

 ただ、私自身を振り返ると、子育てをしていた時期は本書のいう空白タイムとは少し違いますが、15分程度の小さなスキマ時間をどう生かすかをつねに意識していました。たとえ短くても、二行でも三行でも訳そうと思っていたんです。

――つまり、時間に追われていたからこそ、自然と集中するための空白をつくれていた。

栗木:はい。いまは以前より時間に余裕がありますが、その分、「まとまった空白の時間をあえて確保する」ことが大事だと感じています。本書で示されているように、毎日のスケジュールにあらかじめ空白タイムを組み込むことが、集中力を保つための鍵になると思います。

――「時間があるからといって集中できるわけではない」という、逆説的な現象が起きているんですね。私自身、週末は時間がたっぷりあるはずなのに、つい昼頃に起きてだらだら過ごしてしまって、結局何も進まないまま夜になってしまうというパターンに陥りがちです。

やることを自分で選べる時間

栗木:そうなんです。だからこそ、あらかじめ空白タイムをスケジュールに組み込むことが大事なんだと思います。自分で「この時間は空白タイム」と決めてしまえば、だらだら過ごすのではなく、仕事に集中したり、人と向き合ったりする時間に変えることができます

――つまり、空白タイムとは「何もしない時間」ではなく、「いまやるべきことに一点集中するための余白」として機能するわけですね。

栗木:はい。本書が教えてくれるのは、結局のところ「いま、何を選ぶか」ということです。空白タイムを確保しておけば、「いまは仕事に集中しよう」「いまは子どもと一緒に過ごそう」といったように、その瞬間にいちばん大事な行動を選べるようになる。そうした小さな選択の積み重ねが充実した人生につながるのだと、この本を訳してあらためて感じました。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)