ネイティブ信仰から脱しよう!
「必要最低限ライン」と「許容範囲」の実用ガイド

 World Englishesは学術的には確立済みだが、英会話の教育カリキュラムとして組むことは難しい。リンガ・フランカには決まった型がないからだ。そのため、ネイティブ英語を絶対的な基準として測るTOEICやTOEFLとひも付けるのも難しい。

 とはいえ前述したように、発音も文法もなんでもありではない。ネイティブ英語のルールから外れ過ぎたら、通じない。必要最低限ラインや許容範囲は何か、ポイントを解説しよう。

 まず、発音は、イギリスの言語学者Jennifer Jenkinsが作成した「リンガ・フランカ・コア」というガイドライン※から日本人に該当するものを取り出した。

※Jekninsは、それぞれ異なる母語を持つ非ネイティブたちが互いに理解しあっている英語の発音が、英語ネイティブである自分には聞きとりづらいことに気づいた。この気づきを元に調査を進め、母語が異なる人々が英語を共通語として行うコミュニケーションで「分かりやすさ」に寄与する発音の特徴をリンガ・フランカ・コアとしてまとめた。

◆発音【優先して整える必要最低限ライン】
語順・意味の核を担うストレス配置:伝えたい語にちゃんと強勢を置く。
母音の長短対立:sit-seat / pull-pool の区別は伝達に直結。
/ɜː/(work, first, turn など)の母音:誤ると別語に聞こえやすいので要注意。
th以外の子音の明瞭さ

◆発音【外れても通じる許容範囲】
th /θ ð/ [s z] [t d] で代用しても機能することが多い。
 think→ tink または sink, this → disまたはzis
L/R, s/ʃ は「完璧」より区別の一貫性を優先。
・/ɜː/以外の母音は、一貫していれば日本語なまりでも可(相手が慣れる)。

 なお、上記の許容範囲はあるものの、リスニング力を伸ばすためには正しい発音習得の練習は必要だ。「ネイティブ発音」を目指す必要はないが、発音記号に忠実な音は出せるようになっておくことが望ましい。投資対効果で考えるなら、まずは通じやすさ(長短・ストレス・子音の明瞭さ)を固め、その後に必要なら英語ネイティブの音声変化などを真似して耳をさらに鍛えるのが合理的だ。

 次に、文法は下記を覚えておいてほしい。

◆文法【必要最低限ライン】
(SVOなどの)正しい語順:意味の骨格なので取り違えないこと。
時制の一致:時制の混乱は意味の誤解を招くので極力避ける

◆文法【許容範囲】
三単現の -s:ほとんど問題ない。
冠詞(a/the):多くは文脈で理解可能。