「勉強しているのに成果が出ない」と感じたことはないだろうか。暗記や講義だけでは、実際の仕事やスキル習得に結びつかない。本書『ULTRALEARNING 超・自習法』では、その解決策として「直接性」という学習原則が提示されている。なかでも「プロジェクトに基く学習」は、学んだ知識を即座に実践につなげる強力な方法だ。本連載では、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーにもなった本書の「学習メソッド」を紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

勉強しても成果が出ない理由
英単語を1000個覚えたのに英会話で言葉が出てこない。プログラミングの入門書を読み切ったのにアプリひとつ作れない。こうした経験をしたことがある人は多いだろう。
その理由は、学習内容と実際の使用場面が結びついていないからだ。
本書ではこれを「転移の問題」と呼ぶ。つまり、知識を学んでも実際に応用できなければ、学習にかけた時間は報われないのである。
学校教育や資格試験の勉強は、とかく「講義を受ける」「テキストを読む」といった間接的な学習に偏りがちだ。しかし現実の仕事では、すぐに成果を出せる人材が求められている。だから、私たちは知識を頭に入れるだけではなく、実際に使う場面を想定して学ぶ必要がある。
たとえば、泳ぎ方を本から学んでも、プールに入らなければ泳げるようにはならない。同じように、語学もプログラミングもマネジメントも「直接体験」なくして上達はないのである。
プロジェクト型学習の威力
本書が提唱する「プロジェクトに基く学習」は、この問題を解決するためのシンプルかつ強力な戦略だ。これは、学びたいスキルを使うことを前提に「成果物をつくるプロジェクト」に取り組む方法である。
たとえば英語を学ぶなら「外国人と30分間の雑談をする」というプロジェクトを設定する。プログラミングなら「自分専用の家計簿アプリを開発する」といった具合だ。学んだことをすぐアウトプットする環境を自分でデザインするのが特徴である。
ウルトラ・ラーナーの多くは、必要なスキルを学ぶために、授業よりもプロジェクトを選んでいる。その理由は簡単で、何かを生み出すことを中心にして学習を組み立てれば、少なくとも、それを生み出す方法が学べると保証されるからだ。授業の場合、ノートを取ったり本を読んだりすることに多くの時間を費やすかもしれないが、自分の目標が達成できるとは限らない。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)
プロジェクト型学習の最大のメリットは、学んだ知識を「使わざるを得ない状況」に自分を追い込めることだ。試行錯誤の過程で、自分の理解が甘い部分が浮き彫りになる。これこそが、本書が説く「直接性」の本質である。
小さなプロジェクトから始める
プロジェクト型学習を実践する際のコツは、最初から大きな目標を掲げないことだ。いきなり「英語でプレゼンを成功させる」「アプリをリリースする」と構えると、準備段階で挫折してしまう。
まずは「3分間の自己紹介を英語で話す」「家計簿アプリの入力画面だけを作る」など、小さなゴールを設定するのが効果的だ。ゴールを細分化することで、達成感を積み重ねやすくなり、学習が習慣化する。
また、プロジェクトには「締め切り」を設けるのがポイントだ。期限があることで学習に緊張感が生まれ、集中力が高まる。
学生時代のテスト前夜に一気に勉強を進められた経験があなたにもあるだろう。人間は期限があると、驚くほどの集中力を発揮する生き物なのだ。
「学び」と「キャリア」をつなげる
プロジェクト型学習の強みは、学んだことがそのままキャリアにつながる点にある。
たとえば、「英語で海外顧客にメールを送る」という小さなプロジェクトを繰り返せば、実務で即戦力となるスキルを身につけられる。
また、成果物が残るのも大きな利点だ。独学でプログラミングを学んだ人が、自作アプリをポートフォリオとして提示すれば、転職活動や副業の武器になる。学びを「目に見える形」で残すことで、周囲にスキルを証明できるのだ。
自分でコンピューターゲームを開発してみてプログラミングを学ぶことは、プロジェクトに基く学習の完璧な例だ。工学、デザイン、芸術、作曲、大工仕事、執筆、その他多くのスキルは、最後に何かを生み出すプロジェクトを通じて学ぶのに本質的に適している。(『ULTRALEARNING 超・自習法』より)
さらに、プロジェクトを通じて得られるのはスキルだけではない。課題を定義し、計画を立て、試行錯誤しながら形にしていく経験は、そのままマネジメント力や問題解決力の強化につながる。これは昇進やキャリアチェンジを目指す社会人にとって、何よりの資産になる。
もちろん、すべてが順調にいくとは限らない。途中で失敗することもあるだろう。しかし、失敗もまた学習の一部だ。むしろ机上の勉強だけでは絶対に得られない「実戦経験」として、確実に血肉となる。
キャリアにおける差は、知識量そのものではなく、知識をどう活用するかで決まる。本書が提唱する「直接性」は、その差を埋め、独学を最短距離で成果につなげるカギなのである。
身近なことからやってみる
学び直しを決意しても、「何から始めればいいのか」と迷ってしまう人は多い。そんなときは、まず身近な課題をプロジェクトにしてみよう。たとえば「上司に提案する資料を英語で作ってみる」「家計の支出を管理するアプリを自分で作る」といった具合だ。
この小さな挑戦こそが、学習を知識からスキルへと変える出発点である。完璧である必要はない。大切なのは、学んだことを机にしまい込まず、すぐに試すことだ。
本書が繰り返し伝えるメッセージは明快だ。「直接性」こそ最速で成長する方法であり、プロジェクト型学習はその具体的な実践手段である。
独学や学び直しを志すビジネスパーソンにとって、これは頼もしい道しるべになるだろう。