どんな種類のスキルの習得にも使える「ウルトラ・ラーニング」という勉強法が話題だ。このノウハウを体系化したスコット・H・ヤングは、「入学しないまま、MIT4年分のカリキュラムを1年でマスター」「3ヵ月ごとに外国語を習得」「写実的なデッサンが30日で描けるようになる」などのプロジェクトで知られ、TEDにも複数回登場し、世界の勉強法マニアたちを騒然とさせた。本連載では、このノウハウを初めて書籍化し、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーにもなった話題の新刊『ULTRA LEARNING 超・自習法』の内容から、あらゆるスキルに通用する「究極の学習メソッド」を紹介していく。
「錯覚」を回避せよ!
自分が理解していないことを理解していると勘違いしてしまうのは、残念ながらよく経験する問題だ。研究者のレベッカ・ローソンは、これを「説明深度の錯覚」と呼んでいる。
ここで問題となるのは、私たちが自らの学習能力を評価する際に、それを直接的にではなく、さまざまなシグナルを通じて行うという点である。
事実に関する情報を知っているかどうかを判断するのは簡単だ。
たとえば、「フランスの首都はどこか」という問題に対し、「パリ」という言葉が頭に浮かぶかどうかで判断できる。
しかし、ある概念を理解しているかどうかとなると、はるかに難しくなる。
聞かれた概念を多少は理解していても、特定の目的のためには十分ではない、ということが起きるからだ。
この現象を理解する、完璧な思考実験がある。紙に向かって、自転車がどのような形かを簡単にスケッチしてみてほしい。
芸術作品を描く必要はない。サドル、ハンドル、タイヤ、ペダル、チェーンを正しい場所に配置できるだろうか?
自転車を頭に思い浮かべるだけでなく、実際に描いてみよう。紙や筆記用具が手元にない場合には、それぞれのパーツがどこにつながっているかを口に出して言ってみてほしい。できただろうか?
まさにこれと同じことを被験者に求めたのが、レベッカ・ローソンの研究である。
実際に被験者たちが描いた絵を載せておくが、それが示しているように、彼らのほとんどは自転車のパーツがどのように組み立てられているのかを理解していなかった。
彼らもよく自転車を使っていて、自分たちがそのことをよく理解していると思っていたにもかかわらず、である。
説明深度の錯覚は、より深い理解の妨げになることが多い。その誤解が解けない限り、想像しているよりも自分の理解が浅いことに気づかないからだ。
絵の中でチェーンを正しく装着できたというラッキーな人は、今度は回転式の缶切りでも同じテストをしてみてほしい。
それがどのように機能するのか説明できるだろうか? 歯車はいくつあるか? それがどう動いて蓋を開けるのか?
これは自転車以上に難しいが、ほとんどの人々は、自分が缶切りを理解していると言うだろう。