人類の歴史は、地球規模の支配を築いた壮大な成功の物語のようにも見える。しかし、その成功の裏で、ホモ・サピエンスはずっと「借りものの時間」を生きてきた。何千年も続いた栄光は、今や終わりが近づいている。なぜそうなったのか? 『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』は、人類の繁栄の歴史を振り返りながら、絶滅の可能性、その理由と運命を避けるための希望についても語っている。今回、訳者でありサイエンス作家の竹内薫氏にインタビューを実施。第六の大量絶滅と言われる背景について聞いた。(取材、構成/小川晶子)
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第六の大量絶滅は始まっているのか
――『人類帝国衰亡史』の中には、地球上で過去五回あったとされる「大量絶滅」の話が書かれていました。巨大火山の噴火や小惑星の衝突が引き金となり、繁栄していた生き物たちが一気に減ってしまいました。そして今、人類が地球の生態系を支配する時代に入り、第六の大量絶滅が始まっているのではないかとも言われているそうですね。
竹内薫氏(以下、竹内):はい。身近なところではニホンオオカミももういないわけですし、絶滅した種は非常に多いです。かつては人類も希少だった時代がありましたが、一気に増えて広がったことにより、さまざまな生物が追いやられ絶滅してしまいました。
ただ、我々自身も実は絶滅の危機にあるんですよ。今の世界人口は約82億人でピークを迎えていますが、これから減っていくことは間違いないでしょう。
本書の著者であるヘンリー・ジー氏は、ホモ・サピエンスの絶滅は今後一万年以内に起こりうると述べています。ですから「第六の大量絶滅」は皮肉でもあります。
「人類が多くの生物を絶滅させてしまった」ということばかり言われますが、人類は自分の首も絞めているのです。たとえば1900年代半ばから核兵器を作りだして、ボタンを押しさえすれば絶滅の道へ真っ逆さまの世界に私たちは暮らしています。
ポジティブな面に注目が集まっているAIも、一つのボタンになるに違いありません。人類絶滅のボタンはいたるところにあります。それも含めて「第六の大量絶滅」なんじゃないかと思います。
科学技術文明を生きる人類が気を付けるべきこと
――科学の進歩によって人類は繁栄できているけれど、その科学が絶滅のボタンになるかもしれないという……。危険と隣り合わせなんですね。
竹内:科学は諸刃の刃と言われます。必ず、いい面と悪い面があるのです。太陽光発電にしても、最初は多くの人が「環境にいいんだ」と言ってイケイケドンドンでたくさんパネルを設置しました。でも、今とくにSNSではマイナス面が目立っていますよね。
インドの海上にある世界最大の太陽光発電所が嵐の被害を受け、環境にいいどころか海洋汚染になったというのが話題になっていましたし、日本でも山肌にパネルを設置したら土砂崩れが起きてしまったなど、ネガティブな話題をよく目にします。
すべてに都合のいい科学は存在しないんですよ。ところが、「あっちの科学はダメだけどこっちの科学はいい」というようなイメージで動いてしまう人が多く、それに政策が乗っかると悲劇が起きますね。
一方的にいいことだけ求めようとすると、危険なのです。
ですから、みんながいいと言っている科学でも「そんなに増やして大丈夫ですか? マイナス面もありますよ」、逆に今はみんなに嫌われている科学にも「こんなプラス面もありますよね」というバランス感覚を常に持たなければならないと思います。
それが科学技術とのつきあい方です。科学技術文明を土台として生きている私たちが気を付けるべきことですね。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』〈竹内薫訳〉に関連した書き下ろしです)



