ダメな組織ほど「戦略」を連呼し、ますますダメになっていく理由とは?
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。
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ダメな組織ほど「戦略」を連呼し、ますますダメになっていく理由とは?
“戦略”という言葉が好きな組織は多い。
戦略コンサルタントやCSO(Chief Strategy Officer:最高戦略責任者)として20年近く戦略に携わってきて、とにかくそう思う。そして、もっと言うと、ダメな組織ほど“戦略”という言葉が好きだ。
「うちには戦略がない」
「人事部の戦略を発表する」
「戦略的なプロジェクトを立ち上げる」
などなど。オフィスでの雑談、会議での議論、場合によっては、大事なプレゼンでの1メッセージでも使われる。面白いもので、優れた組織ほど“戦略”という言葉を慎重に使い、議論や資料ではあまり使わなかったりする。
ダメな組織ほど“戦略”という言葉を連呼する理由:あまり考えてなくても、それっぽくなるから
ダメな組織ほど“戦略”という言葉を連呼する一番の理由は、“戦略”という言葉を使って伝えると「あまり考えなくても、それっぽくなる」からだ。
さきほどの「戦略的なプロジェクトを立ち上げる」などがその典型だ。
なぜ「それっぽくなる」のかと言えば、戦略と戦術という言葉に上下関係があるように、戦略という言葉には一般に「より大局的で、より長期的で、より上位」なニュアンスがあるからだ。
そして、戦略という言葉は定義が曖昧なので「あまり考えなくても」さまざまな言葉と組み合わせて使うことができる。
ダメな組織は伝えることの内容よりも、伝えることをいかに飾るかに頭を使いがちだ。このため、“戦略”という言葉は、ダメな組織で「あまり考えなくても、それっぽくなる」ための飾りとして連呼されている。
「あまり考えなくても、それっぽくなる」ことの弊害
しかし、この「あまり考えなくても、それっぽくなる」という理由で“戦略”という言葉を使っていると、組織はますますダメになっていく。
理由は「あまり考えなくても、それっぽくなる」言葉を使うことで、大事なことでも考えない組織になっていくからだ。
たとえば組織になにか問題があるが、それを突き詰めて考えられていないとき。こんなときに「あまり考えなくても、それっぽくなる」ので「うちには戦略がない」と言ってしまう。
たとえば「人事部のやることを発表する」と言いたいが、その「やること」の内容が乏しいとき。こんなときに「あまり考えなくても、それっぽくなる」ので「人事部の戦略を発表する」と言ってしまう。
このように「あまり考えなくても、それっぽくなる」という理由で“戦略”という言葉を使っていると、問題やその解決を考えられなくなっていき、問題は放置されて、ダメな組織はますますダメになっていくのだ。
“戦略”という言葉は、相手と定義が揃うときにだけ使おう
もちろん、“戦略”という言葉を使って伝えることを全面的には否定しない。“戦略”という言葉を使って伝えるのが適しているのは、伝える相手と“戦略”という言葉の定義が揃っているときだ。
長年一緒にやってきた経営メンバーのあいだでの議論であったり、戦略策定の担当者間での議論であったり、それらの人と戦略コンサルタントのあいだでの議論であったり、戦略の定義が相手と揃う場面では伝わるだろうし、議論が建設的になるだろう。
しかし、相手と定義が揃っていないときに“戦略”という言葉を使って「戦略的なプロジェクトを立ち上げる」や「うちには戦略がない」や「人事部の戦略を発表する」などと伝えても、それっぽくはなっても、相手にはなにも伝わらない。
そしてなにより、「あまり考えなくても、それっぽくなる」言葉を使う習慣が組織で広がると、どんどん考えない組織になり、より一層にダメな組織になっていってしまう。
優れた組織は言葉の「定義」に拘る
優れた組織は“戦略”という言葉を使うときには定義を添えていたり、または、定義が揃う場面でだけ使うようにしていたりする。このため、優れた組織ほど“戦略”という言葉が議論や資料で登場する回数が少なかったりするのだ。
たかが言葉の定義、されど言葉の定義。組織は言葉の定義にも拘ることで、優れた組織になっていくものなのだ。
(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)









