チームが疲れているように見える……。みんな一生懸命に働いているし、能力が足りないわけでもない。わかりやすいパワハラがあるわけでもなければ、業務負荷が過剰になっているわけでもない。だけど、チームは疲弊するばかりで、思ったような成果を出せずにいる……。なぜだろう? そんな悩みを抱えているリーダーが数多くいらっしゃいます。
その原因は、心理的リソースの消耗かもしれません。心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるぞ!」と奮起する心のエネルギーのこと。メンバーの心理的リソースを無意識的に消耗させていると、徐々に活力が削がれ、場合によっては崩壊へと向かっていきます。そのような事態を招かないためには、チームの心理的リソースを活用していくマネジメント力を身につける必要があります。
櫻本真理さんの初著作『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』では、そのための知識とノウハウをふんだんに盛り込んでいます。本連載では、その内容を抜粋しながら紹介してまいります。
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リーダーが「自分の姿」を知るのは難しい
自分の「本当の姿」を知る――。
これは、リーダーにとってとても大切なことです。
なぜなら、リーダーが「よかれ」と思ってやっていることが、メンバーの心理的リソースを奪っているケースが非常に多いからです。このようなことが起きるのは、リーダー本人が、自分の「本当の姿」に気づけていないからです。
ところが、これが難しい。自分の顔を直接見ることができないように、自分の「本当の姿」を直接見ることはできないからです。では、どうすれば自分の「本当の姿」に気づくことができるのでしょうか。
ある食料品会社の企画部門でリーダーを務める勝田課長の事例をもとに、一緒に考えていきましょう。
勝田課長は、メンバーからの企画提案件数を増やしたいと考えていました。特に若手の吉村さんからはなかなか企画が出てこなかったため、サポートが必要だと感じていました。
そこで、「週に一回の1on1の場で、たとえ“生煮え”でもいいから、2つ企画案を出してほしい。その場で一緒にブラッシュアップしていこう」と提案しました。
吉村さんは素直に応じてくれ、毎週ノルマ通りに2本の企画を準備して1on1に臨むようになりました。そして、勝田課長は自分の経験を踏まえて丁寧にアドバイスを伝え、吉村さんはそれを熱心にメモしながら耳を傾けていました。その姿を見ながら、勝田課長は「よし、うまくいっている」と安心していたのです。
ところが、しばらく経った頃、1on1の日に吉村さんが体調不良で欠勤しました。その翌週からは、再び1on1に企画2本を提出するようになったのですが、どうも様子がおかしい。企画についてディスカッションしているときに、勝田課長と目を合うのを避けているように思えたのです。「なにかがおかしい……」。勝田課長はなんとなく嫌な予感がしていたと言います。
そして、その予感は的中します。
人事部が毎年行っている異動希望の聴取で、吉村さんが「異動を希望する」と申告していたことが判明したのです。人事部長に呼び出された勝田課長は、そこで初めて吉村さんの“本音”を知ることになりました。
メンバーが「本音」を押し殺す理由
吉村さんは、このように語っていたといいます。
「勝田さんが親身になってくれていることには感謝しています。だけど、『毎週、必ず2本』というノルマに強いプレッシャーを感じていました。
それに、勝田さんの指摘に違和感を覚えても、実績のない自分には反論できず、かえって企画を考えるのが苦しくなっていました。企画部門には自分は向いていないのではないかと感じ、異動したいと思うようになりました」
人事部長から、この話を聞いた勝田課長は目の前が真っ暗になりました。
「よかれ」と思ってやっていたことが、吉村さんを苦しめる結果を招いていたのですから、「ああ、俺はなんてバカなことをやっていたんだ……」とガックリと肩を落とすほかありませんでした。
そのうえで、人事部長と話し合った結果、今回は、吉村さんの異動は見送ることが決定。ただし、人事部長は、勝田課長に吉村さんの育成方法について再考したうえで、修正することを強く要請しました。
この話を聞いて、みなさんは「怖いな」と感じないでしょうか。
なぜなら、私たちだって、勝田課長と同じように、「リーダー自身は“よかれ”と思ってやっていることが、メンバーの心理的リソースを消耗させていることに、リーダーが気づくことができない」という状況に陥っているかもしれないからです。
勝田課長の場合は、人事部長からの指摘によって、「吉村さんの本音」を知ることができましたが、このようなケースはむしろ稀でしょう。多くの場合、メンバーがリーダーに対して抱いている「違和感」や「不都合な真実」は、リーダーに知らされることはないはずです。
いくらリーダーが「言いたいことがあったら、何でも率直に言ってね」と言ったところで、「批判するようなことを言えば、この人はきっと受け止めてはくれないだろう」と思われていれば、メンバーがどんなに「不満」を感じていたとしても、「自分を守るため」に、その“本音”を押し殺してしまうでしょう。
だから、リーダーが、自分の言動がメンバーに悪影響を与えていたとしても、そのことに気づくのはきわめて難しいことなのです。
リーダーに求められる「コーチャビリティ」とは何か?
ここで問われるのが、リーダーの「コーチャビリティ」です。



