100年以上かかる理由付け
論理学の法則を無視している?

 全部処理するために、なぜこのように長い時間がかかるのか?

 日銀が示した「当面の金融政策運営について」(25年9月19日)は、次のように説明している。

 まず、注1で、次のように説明している。

「日本銀行は、2002年から2004年および2009年から2010年にかけて、金融システム全体の安定性を確保するため、金融機関からの株式買入れを実施した。その後、一定のペースでそれらの株式の売却を進め、今年7月にその処分を完了した」

 そして、「別紙」では、次のように記している。

「日本銀行は、(中略)これまで『金融機関から買入れた株式』の売却を円滑に進めてきた経験を踏まえて、当分の間、以下のとおり、当該売却と同程度の規模(市場全体の売買代金に占める売却割合は0.05%程度)で、保有するETF等の売却を行うこととした」

 つまり、金融機関から買い入れた株式は、市場に影響を与えることなく処分が完了したので、今回も市場に影響を与えないために、このときと同様の売却(市場全体の売買代金に占める売却割合が0.05%)を行うというのだ。

 しかし、この論理は、私には理解できない。

「このときと同額(あるいは、それ以下)なら市場に影響しない」という点、つまり、「同額売却は、市場に影響を与えないための十分条件」という点は分かるのだが、そうだからといって、その裏命題「売却額がこのときより多ければ、市場に影響を与える」ということにはならないからだ。

 日銀が示したETF売却の基本方針は、「ある命題が真のとき、その裏命題が真であるとは限らない」という論理学の法則を無視しているように思える。

 ただ、「当面の金融政策運営について」で示されたのは、あくまでも「当面の市場環境を前提とした初期計画」であり、日銀も明言しているように「市場の状況を見ながら柔軟に対応」する余地はある。最初は小規模で売却を始め、市場の状況を見て市場で吸収できる額を図りながら売却額を増やし、もっと短期間で店じまいすることを考えるべきだ。

増加する日銀納付金に関心
どう活用するかの議論も必要に

 ETF売却では、市場への影響のほかにも問題がある。

 日銀が保有するETFは、取得時の簿価で約37兆円、今年3月末時点で約70兆円だ。つまり、含み益は約33兆円という巨額なものだ。

 ETFが実際に売却されれば、含み益は実現益(売却益)として会計計上され、最終的には日銀納付金として国庫に入る。24年度決算では、ETFがもたらす分配金が約1.4兆円あり、日銀納付金も全体では2.15兆円だ。売却が始まれば、分配金は減るが、売却代金は今後、増えることになるだろう。

 現時点の方針通りなら売却のスピードが極めて緩やかなので、年間の売却益は4500億円程度と、さほど巨額とはいえないが、そうであっても、これをどう利用するかについての議論が生じる可能性はある。売却ペースを加速すればするほど、活用法についてもきちんとした議論が必要になる。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)