ちなみにワシントン条約とは、正確には、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。絶滅の危険性のある生物において、主に経済的な国際取引を制限するために締結されている。早い話が、肉や脂とか、牙とか、毛皮なんかを目的に、数の少ない動物が乱獲されるのを防止するためってことね。

 対象となる動物は多岐にわたるが、主に人間の利益になる陸上生物が対象となっており、水生生物で対象となっているものは極めて少ない。

 だから、昨今の動物園の生物の入手は大変だ。話によると、無制限に捕まえることができた昔と違い、最近の入手ルートは鳥獣売買業者(動物商)からの購入に限られるが、それすらも自然界で捕らえるわけにはいかず、保護された個体、もしくは現地での繁殖により数を増やした個体が主だそうだ。

 動物園側でも繁殖に努め、時に他の動物園と動物を融通しつつ、日本全体において展示動物が絶えないように何とか維持している。おかげで、最近は動物園の動物も高齢化している。

水族館の生物たちは
「網と釣り竿で捕獲」が通用する

 さて、水族館の本で動物園の話を延々と語ってしまった。ようやく「水族館の生物はどこから来るの?」という話をしよう。

 実は水族館は、動物園と違い、展示する生物がメチャクチャ多岐にわたる。魚は水族館の最も得意とするところだし、クラゲ、タコ、ヒトデなどをはじめとした多種多様な無脊椎動物たち、さらには、水に棲む仲間ということでカエルなどの両生類、ウミガメやウミヘビなどの爬虫類、そしてイルカやペンギンの展示により、本来動物園が専門とする哺乳類や鳥類までもカバーする。

 さらに、時には動物の枠組みも飛び出して、海藻やアマモ(植物)やプランクトン(原生生物)までをも集めてくる。……なんとなく、言いたいことは分かったであろう。あれだけ動物園を縛っていたワシントン条約の規制が及ばない生物がほとんどであるし、わざわざアフリカまで行かなくても、その辺の海や川に展示用の生物が大勢いるわけだ。言い換えれば、「網と釣り竿持って海岸行ってきまーす!」が普通に通用するのである。

 あ、もちろん、アザラシやペンギン、一部を除いたイルカなど、例の条約に引っかかる生物の展示には、動物園と同じ苦労を背負っている。それらは、例えばちゃんと手続きをした上で業者から入手する、保護した生物を飼育する、もしくは水族館の間で交換するなど、正規の方法を経て展示している。