イルカはどこから入手する?
のどかな港町が直面する現実

 さて、そんな大型海獣類の中で、補充が比較的容易にできる生物がいる。イルカ(注1)である。正確に言うと、イルカの中でも主にバンドウイルカやカマイルカ、そしてゴンドウ類という種類だ。これらは日本の水族館でも数多く展示されるグループである。

 そんな日本国内の水族館で展示されるイルカのほとんどが捕獲される町がある。和歌山県の太地町(たいじちょう)である。

 和歌山県で最も小さな自治体である太地町は、紀伊半島の南東部に突き出た町。ここは昔から捕鯨が盛んで、江戸時代に捕鯨の基地が置かれたり、クジラで町おこしをしたりと、鯨類とは切っても切り離せない土地だ。

 町内にある「太地町立くじらの博物館」では、捕鯨の知識を得られるだけでなく、入り江や水槽で生きたクジラ・イルカ類を見ることもできる。宿に泊まれば、他ではお目にかかれないようなクジラの部位をいただくことができるのだ。

 さて、そんな太地町ののどかな入り江。ここが、世界中を巻き込んだ大論争の火種となる。

 季節になると、この入り江で行われるのがイルカの追い込み漁だ。バンドウイルカをメインに、カマイルカやゴンドウ類などが、網で追い込まれて捕獲される。食用のために締められる個体もいるが、一部は丁寧に生かされ、水族館に卸されるという寸法だ。

 別にこれだけなら、普通の魚の漁と変わらないじゃないか、と思うのだが、世界にはイルカを非常に愛する人々がいる。その一派がこの太地でしばしば妨害を行い、そしてついに、イルカ漁を批判する映画『ザ・コーヴ』までつくってしまったのだ。

 もちろん彼らの批判の矛先のメインはいわゆる捕鯨、つまり食用の方だろうが、その批判はイルカを買っている水族館にも飛び火してしまっている。今や水族館の前で、SNS上で、愛好家たちが「太地からイルカを買うな」の大合唱だ……。

 捕鯨が絡むと、本当に世論は熱くなる。なお、本書ではその是非を論じることはなく、あくまで事実を伝えるのみとしておこう。いろいろと危ないからね。

(注1)イルカ:実は、イルカは広く言えばみんなクジラの一種である。正確には、鯨類はプランクトン食のヒゲクジラ類と肉食のハクジラ類に分けられ、そのハクジラ類の中で小型のものを総括してイルカと呼ぶ。……というか、ハクジラ類の大多数はイルカである。鴨川シーワールド(千葉県)で有名なあのシャチも、例外的に大きくなるイルカの仲間だ。