クマは攻撃後にその場に
いつまでも残ることは稀
ただし、最初の一撃のみだとしても、さすがにクマの力はすさまじい。しかも、頭部や顔面をやられてしまえば、かなりの重傷を負ってしまう確率は高い。
そして、クマの動きは想像以上に俊敏だ。襲われた人たちはみな、クマの素早さと襲われたことへの動揺で、詳しい記憶は残っていないこともよくあるという。
「もちろん例外はありますが、クマが人間を攻撃した後、いつまでもその場に残ることは稀です。襲われた後、『気づいたときにはもういなくなっていた』という証言もあります」
ところで、「クマは左利きなので、左脚から最初の一撃が飛んでくる」という俗説もある。もしそれが正しければ、あらかじめ予測し対処もできそうだがーー。
「クマにも個体ごとに利き手はあるのでしょうが、左利きがとくに多いということはなさそうです。20年以上クマに襲われた症例を診ていますが、右からも左からもやられています。優位な差はほとんど確認できません」
クマの一撃で鼻が取れた人も
顔面骨折の事例が多い
クマに襲われた受傷者のケガの状況と治療について、中永教授にいくつか重症となった実例を挙げてもらった。
「衝撃的な受傷例でいうと、クマの一撃を受けて鼻が取れてしまった患者さんがいました。現場に駆けつけた救急隊員が、取れて落ちていた鼻を拾い、患者さんの搬送の際、一緒に持ってきてくれたので、当院の形成外科医の手術で接合できました。鼻は大部分が軟骨ですので、取れやすく、接合しやすいのです。
一方、眼となると話は違ってきます。不運にも眼球にクマの一撃を受けてしまった場合、事後の治療ではどうにもならず、失明してしまった例はいくつもあります。
頭がい骨骨折の事例も起こっています。ただし、顔面骨折が多く、脳まで損傷するという事例はあまりないですね。クマは頭もガブッと噛んできますので、骨折には至るのですが」
重傷者でも、クマに襲われた直後は痛みを感じなかった、と証言する人は多い。興奮してアドレナリンが出ていることで、痛みの感覚の閾値が上がっているのだ。その後、救助され病院で治療を受けているうちに、どんどん激しい痛みを感じるようになってくる。
いつまでも痛みやしびれが残る、といった身体的な後遺症は8割程度の傷病者に見受けられる、と中永教授は言う。一方で、精神的な後遺症も。