「まさか自分が襲われるとは」
PTSDに陥るケースも多々ある
「PTSDに陥るケースも多々あります。襲撃後、何カ月も経ってからPTSDが現れることもある。襲われた当時の話を聞いている最中、理由もなく涙が出てきたり、クマの夢、悪夢を見るといった例も多いですね。
先に挙げたマタギを生業とする傷病者の方は、『次にクマが襲ってきたら、必ずやり返してやる』と息巻いていましたけれど、これはレアケースです。普通の人は、自分の人生でまさか、クマに襲われるなんて予期していませんからね。しかも、市街地で『まさかこんなところで……』という場所で襲われることもあります。
ですから心の傷としても遺ってしまうのです。私が調べた範囲では、傷病者の8割ほどはPTSD的な反応を示しています」
クマよけスプレーの使用は至難の業
「この方法しかない」という防御姿勢とは?
もしクマと遭遇し、距離をつめられ襲われそうになったら、地面に伏せて首と顔を守るように防御姿勢を取る。身を守るにはこの方法しかない、と中永教授は語る。クマよけスプレーは風向きや距離の問題もあり、出会い頭の遭遇が多い以上、とっさに使用するのは至難の業だ。
とはいえ、防御姿勢を取ったからといって無傷で済むかというと、なかなかそうはいかないようだ。
「防御姿勢が推奨されるようになったのは、わりと最近のことです。私が診た被害者の中で、しっかりと防御姿勢を取っていたという人は1人だけでした。その方はクマが襲ってきたから、とにかくうずくまって防御姿勢を取った。顔はやられましたし、手の骨も折れましたが、それでも顔の被害は最小限に抑えられたのは、防御姿勢のおかげです」

中永教授によると、海外のクマ対策書では「クマと遭遇したら戦え」と記載されているものもある。かなり勇気のいる行動だが、その選択肢は有効なのだろうか。
「クマの急所は鼻といわれています。とはいえ、鼻をピンポイントに狙うことなんてまず不可能でしょう。空手やボクシングの達人ならまだ可能性はあるかもしれませんが、普通の人では到底無理ですよね。繰り出した拳が口に当たり、牙でガブって噛まれてしまう可能性だってある。
頭部・顔・首への攻撃対策には
ヘッドキャップを着けるのが有効
棒やナタは武器にはなるかもしれませんが、クマと遭遇した際に、都合よく所持しているなんてそうはありません。それに棒やナタ程度ではクマは怯まず襲いかかってくるでしょうね」
頭部や顔、首への攻撃対策には、ヘルメットを装着するのが最も確実だ。ただし、常時被っておくのは、重さもありなかなか負担も大きい。その代替案として、ヘッドキャップを着けておくという手もある。
「ヘッドキャップを着けて防御姿勢を取れば、非着用に比べて被害の度合いはまったく違ってきます。市街地での突然の遭遇はさておき、クマの生息域へ足を踏み入れる際は、有効な選択肢です」
