【世界史ミステリー】ヨーロッパ最強陸軍に“商人の国”が勝つ!? その意外な結末
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

【世界史ミステリー】ヨーロッパ最強陸軍に“商人の国”が勝つ!? その意外な結末Photo: Adobe Stock

ヨーロッパ最強陸軍に“商人の国”が勝つ? その意外な結末

 16世紀、スペインは本国の立地の不利を補うため、北海に面するネーデルラントを中継拠点として交易を展開します。アジアや欧州の物産、そして新大陸の銀まで集まるネーデルラントは、マニュファクチュアも発達して本国を上回る繁栄を示しました。

 一方で、スペインは財政難のたびに同地へ重税を課し、さらに宗教改革期に商工業者の間で広がったカルヴァン派を強硬カトリックのフェリペ2世が弾圧。そのため、経済負担と宗教対立が重なってスペイン本国とネーデルラントの対立は深刻化していきました。

オランダの独立と覇権

 16世紀のスペイン領ネーデルラントは、17の州で構成されていました。1568年、この17の州はついにスペイン本国に反乱を起こします。

 これを機に、ネーデルラントとスペインによる長い戦争が始まり、これは八十年戦争と呼ばれます(~1648)。スペインはすぐさま軍を派遣し、反乱鎮圧に当たります。当時のスペインは、ヨーロッパ最強とも評された陸軍を擁し、実際に戦況を優位に進めます。この結果、南部10州は早々に戦争から離脱することになります。

 しかし、残された北部7州は、1579年にユトレヒト同盟を結成し、スペインに対する徹底抗戦の構えを見せます。1581年、ユトレヒト同盟はハーグでフェリペ2世の統治権の否認を宣言。これをもって、日本の教科書などではユトレヒト同盟が独立を宣言したと見なしています。

 この「独立宣言」により、ユトレヒト同盟は「ネーデルラント連邦共和国」と呼ばれます。下図(図62)を見てください。

【世界史ミステリー】ヨーロッパ最強陸軍に“商人の国”が勝つ!? その意外な結末出典:『地図で学ぶ 世界史「再入門」』

 北部7州で中心的な役割を果たしたのは、ホラント州でした。この「ホラントHolland」という地名が、今日の日本語「オランダ」の由来となっています。

 ネーデルラントの反乱に始まる八十年戦争は、日本の教科書ではオランダ独立戦争とも呼ばれます。1609年にスペインとオランダに休戦協定が結ばれ、これによりネーデルラント連邦共和国(オランダ)は実質的な独立を果たしました。

(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』を一部抜粋・編集したものです)